コラム

ウクライナでEUは「NATOの代わり」になれるのか? NATO第5条「のようなもの」の歴史と限界

2025年12月26日(金)07時15分
ゼレンスキー大統領

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領(2024年10月、ベルギー・ブリュッセル) Alexandros Michailidis-Shutterstock

<「NATO第5条のようなもの」とされるEU条約42条7項と本家本元の決定的な違いとは──>

ウクライナ停戦協議案では、NATOの集団的自衛権を定めた第5条のような安全の保証をウクライナに提供すること、また、早ければウクライナは2027年1月に欧州連合(EU)加盟が実現すると報じられている。

NATO第5条「のようなもの」

「NATO第5条のような」安全の保証――またこのフレーズか、と思わせられる。「第5条に類似した」という表現は、欧州では冷戦時代から使われ続けている。

おそらく米ウ欧の和平案交渉で、欧州の交渉関係者たちがこの言葉を頻繁に使っていたのではないか。欧州でアメリカ人の口からこの言葉が飛び出すとは、なんだか新鮮ではある。

半世紀以上使われたこのフレーズは、欧州では「政治的に決める、政治次第である」といった意味合いで使われてきた。昔は西欧同盟(WEU、1954−2011)の第5条に、今はEU条約の第42条7項に、「のようなもの」が存在する。

NATOの第5条は、「加盟国が一国でも攻撃されたら、それをNATO全体への攻撃とみなす」という、大変特別な集団安全保障を提供している。政治的決定を即時に軍事行動に移行できるし、それを可能にする統一された軍事指揮部、指揮系統、計画、相互運用性が存在する。

しかし、これは唯一無二の存在だ。12月の和平交渉ではウクライナはNATO加盟を断念せざるをえず、「ようなもの」で耐え凌ぐことが確定しそうである。それでは「ようなもの」とは一体なんだろうか。

「のようなもの」が歩んだ道

あまり知られていないが、西欧諸国は1952年に欧州軍を創設しようとしたことがある。しかし実現せず、その代わりに1954年に「西欧同盟」を設立した。この軍事同盟には、NATO第5条の文面にそっくりな「WEU5条」が存在した。これが最初の「のようなもの」である。

しかし字面は同じでも、運用能力に決定的な差があった。西欧同盟は、すべてが加盟国の政治的な意志に委ねられていた。前述したNATOが持っているものを持っていなかった。実行組織も持たず、実権も持たず、ほぼ何もできず「休眠」とすら言われた。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。個人ページは「欧州とEU そしてこの世界のものがたり」異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。ヤフーオーサー・個人・エキスパート(2017〜2025年3月)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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