コラム

ウクライナ支援の「有志連合」とは何か? 安全の保証「NATO第5条のようなもの」が意味すること

2025年08月25日(月)15時50分

23日、ゼレンスキー大統領はウクライナ、米国、欧州が「安全保障の枠組み」の構築に取り組んでいると発表して「すべての作業は数日中に完了する」と述べている。

様々な情報が出てきているが、もし近々何か発表されたら、それは最初の一歩というべきものになるのだろう。

今後どうなるのか

ウクライナにとって、欧米による安全の保証は、停戦交渉の内容に関わる可能性がある。

オデーサ国立大学のボロディミル・ドゥボビク准教授はNHKの取材に対し、もし強力な安全保障の保証がなされれば、ウクライナ側は領土問題の譲歩に前向きになるのではないかと述べた。

さらにもっと中長期的な視点もある。

もし停戦や和平が実現しても、その後の先行きは不明であることが予測される。2度のミンスク合意(2014年と2015年)はどちらも破られた。

停戦合意が不調に終わったとしても、状況次第ではヨーロッパの兵士がウクライナに派遣される可能性もあるかもしれない。その事態を想定しておくことに越したことはないだろう。欧州の軍人の中には「欧州の平和を守るためなら、我々はいつでも戦う準備はできている」と表明する人たちがいるのだ。

どのような経緯であれ、ウクライナの地にヨーロッパ人兵士がいる限り、アメリカの覚悟が再度問われるような事件(偶発的かもしれない)や、状況の変化が起きる可能性はある。

アメリカ大統領の決断は、欧州の覚悟のほどを変え、欧米の関係を大きく変え、NATOのあり方もEUの役割も変質させていく可能性を持っている。

ウクライナ戦争が始まって3年半。第二次大戦以降、日本人と同じでアメリカに守られることに慣れきって、平和と経済繁栄を享受してきたヨーロッパ人はとうとうここまで来た。

平和の実現の願いと、なんだか空恐ろしい不安の中で、日本はどうだろう。アメリカの「同盟国」であり、有志連合に加わる予定と報道される日本は、この不確実な時代にどのように国の未来を見据えているのだろうか。

ニューズウィーク日本版 中国EVと未来戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年10月14日号(10月7日発売)は「中国EVと未来戦争」特集。バッテリーやセンサーなどEV技術で今や世界をリードする中国が戦争でもアメリカに勝つ日

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。個人ページは「欧州とEU そしてこの世界のものがたり」異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。ヤフーオーサー・個人・エキスパート(2017〜2025年3月)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:中国自動運転企業が欧州へ進出加速 競争激

ビジネス

再送米ミシガン大消費者信頼感、10月速報値ほぼ横ば

ワールド

米、中国に100%の追加関税 11月1日付 トラン

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、対中関税巡る懸念再燃 週間
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 2
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル賞の部門はどれ?
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    あなたは何型に当てはまる?「5つの睡眠タイプ」で記…
  • 5
    史上最大級の航空ミステリー、太平洋上で消息を絶っ…
  • 6
    森でクマに襲われた60歳男性が死亡...現場映像に戦慄…
  • 7
    いよいよ現実のものになった、AIが人間の雇用を奪う…
  • 8
    底知れぬエジプトの「可能性」を日本が引き出す理由─…
  • 9
    2026年W杯で、サッカーファンの怒り爆発...「ファン…
  • 10
    【クイズ】ノーベル賞を「最年少で」受賞したのは誰?
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 3
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 4
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿す…
  • 5
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 6
    祖母の遺産は「2000体のアレ」だった...強迫的なコレ…
  • 7
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 8
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    更年期を快適に──筋トレで得られる心と体の4大効果
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story