コラム

EU・インド急接近で変わる多極世界の地政学...「新スパイスの道」構想は前進するか

2025年03月28日(金)13時20分

ここでEUの立ち位置である。「もし我々が賢明であれば、これを有利に利用することができます」とEUの外交官はユーラクティブの取材に対して説明したという。

このような状況は「インドと欧州が、中国に関して共通の利害をもたないことを意味しない」と、政治学者のクリストフ・ジャフレロは『ル・モンド』への寄稿文で主張している。両者とも、中国からの解放、中国から逃れ保護を望むという、共通の願いを持っているので、より高度な強力関係につながる可能性があるという。

インドは「第三の道」として知られる欧州の政策を高く評価しているのだという。中国とアメリカのどちらかを選びたくない国々(東南アジア諸国も同様)に、代替案を提供しているからだと説明している。

原油は問題の焦点にせず

次に、ウクライナとロシア問題。欧州にとっては最大の問題と言える。

印露の緊密な関係はEUをいら立たせてきた。この件をEUはどうするつもりか。

モディ首相は、2024年には二度もロシアを訪問している。今年はプーチン大統領がインドを訪問する予定だ。インドは今までウクライナ侵攻を非難せず、国際的な制裁にも参加していない。

インドは軍事面をロシアに依存しているので、反対できないと説明してきた。過去20年にわたり、ロシアの機器はインドの軍事購入の約65%を占めてきた。

EUの側では、長期的には、これらの購入品を欧州製に置き換えることが可能だと考えている。例えばフランスは最近、インドと戦闘機数10億ドル規模の契約を締結した。

原油の問題もある。

インドはロシア産原油を輸入しており、ディーゼルやガソリンに加工して、世界市場に供給している。インドの精油所が、ロシアの原油価格の下落から利益を得ていることも、EUをいら立たせてきた。

しかし、EU側は制裁に関しては問題提起をしても、原油に関しては問題の焦点にしないようだ。

ある別のEU外交官は、「原油を買うインドを非難するのはやめるべきです。精製されたプロダクトは、欧州のバイヤー向けだからです。むしろロシアへのハイテク輸出を問題にするべきです」と述べたという。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。個人ページは「欧州とEU そしてこの世界のものがたり」異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。ヤフーオーサー・個人・エキスパート(2017〜2025年3月)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

OPECプラス有志国、増産拡大 8月54.8万バレ

ワールド

OPECプラス有志国、8月増産拡大を検討へ 日量5

ワールド

トランプ氏、ウクライナ防衛に「パトリオットミサイル

ビジネス

トランプ氏、7日にも中国とTikTok米国事業の売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    「登頂しない登山」の3つの魅力──この夏、静かな山道…
  • 7
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 8
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 8
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 9
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 10
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story