コラム

ウイグル弾圧の影がちらつく中国の「ワクチン外交」

2021年02月06日(土)14時00分

トルコ当局は近年、急速に中国との関係を深めている。経済難に直面したトルコのエルドアン政権が、中国を頼ったからだ。中国は16年から19年にかけて30億ドルをトルコに投資。原子力発電やIT、通信、軍事、安全保障などに関する2国間協定も次々と締結している。

トルコが国内の亡命ウイグル人を拘束したり、第三国経由で中国に送還したりするようになったのもこれと同時期である。16年以来、既に数百人が強制送還されたとフォーリン・ポリシー誌は伝えている。「エルドアン政権がウイグル人を金で中国に売り渡した」としばしば非難されるゆえんだ。

トルコ当局はワクチン到着の遅延と身柄引き渡し協定の因果関係を否定している。しかしコロナ禍がトルコの主要産業の1つである観光業を破壊した現在、中国はエルドアン政権の唯一の命綱と言っても過言ではない。トルコ議会は2月にも同協定を批准する可能性があると伝えられている。

中国がワクチンを政治利用した証拠はない。しかしワクチンという新たな「武器」を手に入れた中国が、今後さまざまな局面において他国に圧力をかける手段として、これを利用しない保証も一切ない。

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プロフィール

飯山 陽

(いいやま・あかり)イスラム思想研究者。麗澤大学客員教授。東京大学大学院人文社会系研究科単位取得退学。博士(東京大学)。主著に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『中東問題再考』(扶桑社BOOKS新書)。

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