コラム

なぜ超大国アメリカは「勝てない」のか――手段が目的を殺す病

2026年04月10日(金)12時08分

同じことは軍事力についても言えるようだ。私は軍事の専門家ではないが、アメリカは世界最強と言われる軍事力を持ちながら、ベトナムやアフガニスタンなどの戦場では軍事的優位を政治的勝利に結びつけられなかった。同じように、今回のイラン戦争でも、重要人物の殺害には成功したが、政治的勝利には今のところ結びついていない。

サイバー防衛でもこの傾向は顕著で、「相手の攻撃を検知して対処する能力はあっても、有効な防衛には結びつかない」状態だ。確かに特定の攻撃に対処できるようになれば、その攻撃に対しては防御できる。


しかし、新しい攻撃が常に現れる。そのたびに新しい検知と対処を考える必要がある。そんなことは当たり前だと思うかもしれないし、確かに必要なことだが、それを優先すると、「自国の防衛の対象と優先度を相手が自由にコントロールできる」状況を生み出してしまう。

そもそも他にもやるべきことがあるのだ。ウイルス(病気の方)に感染した場合、それを治療する方法は大事だが、医療体制の整備や公衆衛生の充実も不可欠だ。ウイルスの感染拡大を防ぐことができる。

また、栄養状態がよければ感染しないこともある。中露イランが構築しているGFW(グレートファイアウォールもしくは類似のシステム)などは多層の防御でサイバー攻撃や認知戦など多様なサイバー空間の脅威に対処できるようになっている。

サイバー領域ではアメリカに追随する国や研究者は多数おり、そのせいで我々はシーシュポスのように永遠に終わらない役務に苦しめられている。対症療法に特化した「アメリカ症候群」の発想は経済と人材を疲弊させる麻薬だ。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

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