コラム

台湾有事は近づいているのか?

2023年08月21日(月)16時52分
中国軍は、台湾周辺で軍事演習を行った

4月に台湾周辺で軍事演習を行った中国軍 ロイター/Tingshu Wang

<中国が実際に軍事侵攻するかどうかは別として、選択肢として存在する以上そのための準備は必要であり、その意図を見せることも重要だ。中国にとって軍事侵攻は優先度の低い選択肢だが、アメリカや日本がなにも対策していないなら、優先度はあがるかもしれない......>

中国由来のグループVolt Typhoonがアメリカのグアムの施設にサイバー攻撃を行っていた。日本の内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)もハッキングされた。マイクロソフト社のクラウドサービスもハッキングされ、米政府機関など約25の組織のメールに不正アクセスがあった。

こうした一連のハッキング事件から台湾有事との関連を指摘する声もある。特にグアムには米軍の施設があり、台湾有事の際の対応を遅らせるための準備を進めていたのではないかと懸念されている。また、すでにサイバー空間では有事は始まっているという見方もある。

昨年のペロシ訪台をきっかけとして日本国内で数年あるいは2023年にでも中国の軍事侵攻があり得るといった主張は日本国内でよく見られた。最近はだいぶ落ち着いていたようだが、実際にはどうなのだろうか?

時間は中国に有利に働く 陳腐化するアメリカ

しばらくの間は、放っておいても時間は中国に有利に働くと中国が考えている可能性が高い。世界を取り巻く環境は、気候変動、疫病、資源不足、水・食糧不足、移民増加などで悪化している。異常気象は世界各地で深刻な被害をもたらし、住む土地を追われた人も増えている。これに拍車をかけているのがロシアのウクライナ侵攻や、アフリカのいくつかの国で起きている経済成長をともなわない人口増加だ。

アメリカを中心とした民主主義を標榜する国々が持っている統治モデルは経済成長を前提とした社会秩序が保たれたモデルである。その前提だからこそ、個人や企業に大幅な自由を認めることができる。しかし、すでにアメリカは統治モデルと社会の実態が噛み合わなくなっているのだ。2021年1月6日に起きたアメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件がそのことを象徴している。アメリカ国民の多くが内戦を現実の脅威として感じている(参考:過去記事)。

一方、中国は不安定な社会状況を前提とした統治を行い、中国という国の体制を曲がりなりにも維持し、その統治モデルをシステム化して他国にも輸出している。アメリカと中国の統治モデルの違いは社会システムの違いにも如実に表れている。アメリカのスマートシティは「生活の質の向上、都市機能の最適化、運営コストの削減」としているのに対し、中国のスマートシティは「不安定さが増す世界において、安全と秩序を保つ」ことを目的としている。この違いはそのまま両国の世界の認識の違いでもある。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ルクオイル株凍結で損失の米投資家に資産売却で返済、

ビジネス

英中銀当局者、金利見通し巡り異なる見解 来週の会合

ビジネス

ネトフリのワーナー買収、動画配信加入者が差し止め求

ワールド

中ロの軍用機が日本周辺を共同飛行、「重大な懸念」と
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story