コラム

「開発独裁が効率的」「脱炭素も進む」...中東の「民主国」クウェートで何が起こっているのか

2024年07月17日(水)18時40分

しかし、今回ハマド家が加わったことから、大ムバーラクの他の子どもの系譜も首長になれることになり、これがさらに複雑化する可能性が高い。つまり、首長位争いで首長家内部の対立が顕在化しやすくなるということでもある。

かつてクウェートは現代のエルドラドと呼ばれ、金持ちの代名詞のような存在であった。しかし、近年は、その座をUAEやカタルに奪われ、地盤沈下が著しい。

その原因の一つが、政府と議会の対立による政治の停滞であったことは容易に想像できる。政府主導のプロジェクトが議会の反対や妨害にあって、なかなか前に進まなかったのは前述のとおりである。他の中東諸国にない自由や民主主義は、クウェート人の自慢でもあったが、それが経済発展を妨げる要因となっているのは皮肉であろう。

実際、多くのクウェート人が、他の湾岸諸国と同様の「開発独裁」のほうが効率的だと主張するようになっており、日ごろ民主化や人権についてやかましい西側の専門家のなかにも、首長による議会閉鎖を、これで脱炭素を含む、さまざまなプロジェクトが進みやすくなるとして、ポジティブにとらえるものが少なくない。

今後4年のあいだに、クウェート人がどのような選択をするのか判断はむずかしい。だが、1989年の議会再開運動のときのような、民主化を待望する空気は、今の中東ではかならずしも主流ではない。

現在、世界全体で中国やロシアなど権威主義体制の影響が強まっており、中東でもそれは例外ではないのである。

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プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究顧問。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授、日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長等を経て、現職。早稲田大学客員上級研究員を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

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