コラム

バーレーンの金メダリストの大半は帰化人だった

2018年09月26日(水)11時55分

バハレーンの金メダル12個はすべて陸上競技

この相違は、金メダルの内訳を見ると、よくわかる。たとえば、バハレーンの金メダル12個はすべて陸上競技で取ったものだ。また、カタルの場合も6つの金メダルのうち4つが陸上競技である。カタルの残り2つはビーチバレーとハンドボールだが、ハンドボールで銀メダルを取ったのはバハレーンであった。一方、UAEの金メダルは柔術とジェットスキー、クウェートは空手、馬術、射撃である。

一般に湾岸諸国でスポーツといえば、サッカーが圧倒的人気だ。それ以外、たとえば団体競技ではハンドボールも人気で、日本で有名になった、審判が中東諸国に有利な判定をする、いわゆる「中東の笛」というのは実はもともとはハンドボール競技での事件に由来したものである。

また、湾岸では格闘技も人気で、空手やテコンドー、柔道にも多数のファンがいる。もちろん、古代バビロニアのレリーフにレスリングの場面が描かれているように、中東は格闘技発祥の地とも考えられる。寝技世界一決定戦といわれる「アブダビ・コンバット」がUAEの首都アブダビで開催されるのはその流れで理解される。

また、馬術、ジェットスキー、射撃といった上流階級っぽいスポーツが強いのも、湾岸諸国の特徴である。実際、馬術のメダリストのなかには湾岸諸国の王族も含まれている。

一方、陸上競技はというと、湾岸諸国が頭角を現してきたのはつい最近のことである。バハレーンがオリンピックで最初に金メダルを取ったのは2012年ロンドン大会で、女子1500mでマルヤム・ユースフ・ジャマールが優勝、2016年のリオデジャネイロ大会ではルース・ジェベトが女子3000m障害で優勝、ユニス・ジェプキルイ・キルワが女子マラソンで2位に入っている。

ちなみに今回のアジア大会でバハレーンは男子5000m、男子1万m、女子100m、女子200m、女子400m、女子1500m、女子3000m障害、女子400mハードル、女子5000m、女子マラソン、女子4×100mリレー、混合4×400mリレーで金メダルを取っている。また銀・銅もそれぞれ7つずつ獲得しているが、ハンドボール(銀)を除くと陸上ばかりである。

他方、ライバルのカタルは、男子400m、男子400mハードル、男子ハンマー投げ、男子4×400mリレーで優勝している。

突然、優秀な陸上選手が現れてきたのは偶然ではない

バハレーンやカタルのような小国に突然、優秀な陸上選手が現れてきたのはもちろん偶然ではない。上に挙げたバハレーンのオリンピック・メダリストは実はすべて帰化選手であり、順にエチオピア、ケニア、ケニアの出身者なのである。同様のことは、カタルにも当てはまり、アジア大会での活躍は両国のスポーツ政策の賜物といえる。たとえば、バハレーンのリレーを除く金メダリストを列挙してみよう。

男子5000メートル:ビルハヌ・バレウ(エチオピア)
男子1万メートル:ハサン・シャーニー(モロッコ)
女子100メートル:エディオング・オディオング(ナイジェリア)
女子200メートル:エディオング・オディオング
女子400メートル:サルワー・イード・ナーセル(ナイジェリア)
女子マラソン:ローズ・チェリモー(ケニア)
女子400メートルハードル:ケミ・アデコヤ(ナイジェリア)
女子3000メートル障害:ウィンフレド・ムティレ・ヤビ(ケニア)
女子1500メートル:カルキダン・ゲザヘグネ(エチオピア)
女子5000メートル:カルキダン・ゲザヘグネ

カッコ内は元の国籍である。つまり、バハレーンの金メダリストの大半が実は帰化人なのだ(ちなみにリレーの金メダリストのうち2人はバハレーン生まれのバハレーン人だと思う。また女子400メートルのナーセルは父がバハレーン人、母がナイジェリア人ともいわれているが、ナーセルを名乗るまえはずっとナイジェリア名を名乗っていた)。

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授等を経て、現職。早稲田大学客員教授を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

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