コラム

スタバも、スバルも、人種差別主義者なのか?

2018年05月28日(月)16時24分

黒人客が逮捕され騒動になった米フィラデルフィアのスターバックス店舗で抗議活動を行う人たち(4月18日) Mark Makela-REUTERS

<米スタバが人種差別的と批判される騒動があったが、アラブ諸国では以前から「シオニスト」呼ばわりされている。レッテルを貼られ、批判を受ける企業はスタバだけではない>

今年4月、米フィラデルフィアにあるスターバックスの店舗で客と店員のあいだで小競合いが起きた。黒人客が注文まえに、トイレを使用したいと店員に求めたところ、店側がそれを拒否、両者のあいだで口論となったため、店が警察を呼び、黒人客が警察に逮捕されたのである。

黒人客は事情聴取後、すぐ釈放されたが、他の客が逮捕現場を撮影し、それをSNSに投稿したため、たちまちスターバックスは人種差別的だとの批判が拡散していった。そのため、スターバックスは、米国内の全直営店を一時閉鎖し、17万人以上の従業員に研修を行うとした。

ところが、この研修が行われるまえに、今度はカップにメキシコ人を差別する用語が書かれたとして、ふたたびスターバックス批判がSNS上で大きく取り上げられてしまう。

スターバックスが人種差別主義者かどうかをここで問うつもりはない。だが、アラブ世界ではかなり昔から同社は「シオニスト」だと批判されてきた。

シオニストとは、ここでは熱烈なイスラエル支持者の意味で用いている。したがって、イスラエルと対立するアラブ諸国では人種差別主義者と同義語になる。「シオニズムが人種主義と人種差別の一形態である」という国連総会決議は今は撤回されているが、一部アラブ人のなかではこの文言はまだ生きているのだ。

実際、アラブ諸国に住んだことのある人であれば、アラブ人からいやというほどこの種の陰謀論を聞かされたにちがいない。スターバックスは、イスラエル政府やイスラエル軍に莫大な献金をしているだとか、ユダヤ人である創業者のハワード・シュルツは熱烈なシオニストで、イスラエルから表彰されただのという話だ。これらの噂に対しスターバックスは明確に反論しており、さらに多くの噂が捏造であったこともわかっている。

ちなみにイスラエルには現在、スターバックスの店舗は存在しないが、アラブ諸国の多くにはスターバックスが展開している。この事実をもってしてもスターバックスがシオニストかどうかは微妙だが、アラブ圏で半ば事実として語られているのも事実である。

イスラエルがパレスチナ人を攻撃したり、入植地の建設を強引に推し進めたりすると、そのつどスターバックスはイスラエル製品やイスラエルに関連するものをボイコットせよ、との呼びかけがあちこちで叫ばれるのだ。

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究顧問。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授、日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長等を経て、現職。早稲田大学客員上級研究員を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米GDP、第1四半期速報値0.3%減 関税で3年ぶ

ワールド

トランプ氏、「好きなだけ」政権にとどまるよう要請 

ワールド

中国との公正な貿易、知的財産権の管理も含まれる=ト

ビジネス

独CPI、4月速報は+2.2% 予想上回るも伸びは
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 2
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・ロマエとは「別の役割」が...専門家が驚きの発見
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 7
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 8
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 9
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story