コラム

イスラエルとサウジの接近で思い出す、日本大使館のスパイの話

2017年04月25日(火)18時40分
イスラエルとサウジの接近で思い出す、日本大使館のスパイの話

Popartic-iStock.

<イランという共通の敵ができ、天敵のはずの両国が歩み寄っている。だがイスラエルは長年、サウジアラビア関連情報をあまり重視していなかった>

米国の中東政策を形成するのに重要な役割を果たすのは当然、国務省の近東局というところで、責任者は通常近東担当次官補になる。このポジションは政治任用だが、実は4月25日現在きまっておらず、したがって、米国の中東政策の概要がみえてこない。

ティラーソン国務長官は、石油会社出身のくせに、失礼ながら中東のことを理解しているとは思えず、独自の中東政策を打ち出せるとは考えづらい。

たまたま在京米大使館員と話していたら、政治任用はかならずしも専門家である必要性はなく、政治的影響力(大統領との距離など)のほうが重要なことが多いといっていて、たしかにそのとおりなのだが、火薬庫みたいな中東に、火炎放射器をもって乗り込んでいくような人はやっぱりご遠慮いただきたい。

肝心要の近東局の頭が決まらない状況で、誰が中東政策で影響力をもつかというと、曲がりなりにも職掌として中東が含まれている、トランプ大統領の女婿、ジャレッド・クシュナー大統領上級顧問となるのだろう。

正統派ユダヤ教徒でもある彼の一族の金がイスラエルの入植地に回っているなどという説もある。こうした色のついた人物が中東政策の要になった場合、政策も特定の方向に引っ張られかねないのではないかと、わたしのようにアラビア語を生業とするものは危惧してしまう。

アラブ諸国の盟主の役割を果たさねばならないサウジアラビアは、トランプ大統領の反イラン的発言に気をよくしており、先日のシリアでも「完全に支持」というように、もろ手を挙げて賛成の状態である。

そうでなくても、核合意でイランが国際社会に復帰する目が出てきた段階で、サウジアラビアの苛立ちは相当高まっており、しかも頼みの綱の米オバマ政権はまったく頼りにならなかった。天敵のはずのイスラエルと接近などといった報道が目立ってきたのも、それを反映したものだっただろう。

イスラエルとしても、イランという共通の敵ができて、サウジアラビアの役割は重みを増しているのかもしれない。ここ数年、両国から発せられる反イランの言説が、嘘くさい部分も含めて、びっくりするほど似通っているのは、示し合わせているんじゃないかと邪推したくなるほどだ。

モサドがわたしの職場でスパイをリクルートしていた

しかし、イスラエルがもともとサウジアラビアにそれほど強い関心をもっていなかったのはいろいろな資料からうかがえる。少し古いが、ビクター・オストロフスキーという人が書いた『モサド情報員の告白』(TBSブリタニカ、1992年)という本がある。

この本によれば、少なくともイスラエルの諜報機関、モサドはサウジアラビア関連情報をそれほど重視していなかったらしい(とはいえ、いろんなかたちで接点を維持していたのは本書でも描かれている)。

【参考記事】サウジ国王来日 主婦はほんとに爆買いにしか関心ないんですかね

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授等を経て、現職。早稲田大学客員教授を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

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