コラム

テヘランのトイレは小便器なし、シャワーあり

2016年11月25日(金)14時45分

尻の穴をめがけて正確にシャワーを噴射するのは難しい

 蛇足だが、前述の朝日新聞の記事には「イランのトイレには必ず、水の噴き出すホース」があると記されている。これはイランにかぎらず、アラブ諸国でもおおむねそうで、日本のシャワー・トイレと似たようなものが中東でも広く普及しているのだ。しかし、日本のハイテク・トイレとは異なり、かの地では単にシャワーの先から水かお湯が出てくるにすぎない。したがって、用を足した人は、自分の手で尻の穴に蛇口を向けて、水流も微妙に調節しながら、洗わねばならないのだ。紙で拭くよりは気持ちいいが、片手でずり下がるズボンを抑えながら、もう一方の手で、後ろに手をまわしながら(これはわたしのやりかた、もしかしたら前から派もいるかもしれない)、尻の穴の位置めがけて正確にシャワーを噴射するのはけっこう難しく、相当な慣れが必要である。ちなみに手で水をすくいながらピシャピシャ洗う場合、男性は後ろから前へ、女性は前から後ろへと洗うべしと最高指導者はいっているので、わたしのやりかたはシーア派的には正しいことになる。

 インターネット上にある外国人によるイラン旅行記を見ていたら、男性用小便器にシャワーがついている写真があった。こちらはアラブ諸国ではあまり見かけないものだ。だが、用を足したあと、水で洗うというのも預言者の慣行にもとづいている。また、ハディースには、預言者が小用の際、右手でペニスに触れたり、右手でペニスを洗ったりしてはならないと述べたとも記録されている。少なくとも写真をみるかぎり、イランの小便器につけられたシャワーは、右手でもつようになっているので、男性は左手でペニスをもっていることが前提になっているはずだ。

 しかし、右手でシャワーホースをつかんでペニスに水をかけた場合、これは洗う行為には含まれないだろうか。考えてみると、大便器の場合もシャワーは基本的に右側についている。右手でホースをもってペニスや尻の穴に水をかけて、それから左手で該当部分をごしごし洗うというのが作法なのだろう(小生がもっているホメイニー師の『諸問題解説の書』の英訳には小の場合、ペニスは左手でもつ、水で洗えばOKとなっているが、どちらの手で水をかけるかは書いていなかったと思う。ちなみに、お尻の洗いかたについても具体的に書いてあるので、くわしくはそちらを参照してほしい)。

 世界に冠たる日本のハイテク・トイレ、すでに大のあとの洗浄は完成の域に達しているといえよう。小の場合でも、用を足したあと、センサーで先端を探知し、正確にシャワーを命中させ自動的に洗ってくれるという技術などつくれないだろうか。そうすれば、ハラール・トイレとして逸早くイスラーム市場を独占できると思うのだが。

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究顧問。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授、日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長等を経て、現職。早稲田大学客員上級研究員を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル軍、ガザ市住民に避難指示 高層ビル爆撃

ワールド

トランプ氏、「ハマスと踏み込んだ交渉」 人質全員の

ワールド

アングル:欧州の防衛技術産業、退役軍人率いるスター

ワールド

アングル:米法科大学院の志願者増加、背景にトランプ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習慣とは?
  • 4
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給…
  • 5
    「ディズニー映画そのまま...」まさかの動物の友情を…
  • 6
    ロシア航空戦力の脆弱性が浮き彫りに...ウクライナ軍…
  • 7
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 8
    金価格が過去最高を更新、「異例の急騰」招いた要因…
  • 9
    今なぜ「腹斜筋」なのか?...ブルース・リーのような…
  • 10
    ハイカーグループに向かってクマ猛ダッシュ、砂塵舞…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習慣とは?
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 6
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 7
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 8
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨッ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story