マクロスコープ:ホルムズ危機、物価と成長直撃の懸念 日本の弱点露呈再び
ホルムズ海峡とイランを示す地図。2025年6月撮影。REUTERS/Dado Ruvic
Kentaro Sugiyama
[東京 2日 ロイター] - 米国とイスラエルによるイランへの軍事攻撃を受け、中東情勢が緊迫している。原油価格の上昇を通じ、日本経済に逆風となる可能性が出てきた。金融市場では、短期で収束すれば影響は限定的との見方も多いが、エネルギー価格の上昇が物価を押し上げ、実質所得を削る構図は避けがたい。海運の混乱が長期化すれば、国内の生産活動が制約されるリスクもある。
原油輸出の要衝ホルムズ海峡の動向は、最大の不確実要因だ。関係者によると、複数のタンカー運航会社や石油大手、商社がホルムズ海峡経由の原油、燃料、液化天然ガスの輸送を停止したとされる。運航停滞が長引けば、日本への原油供給にも直接的に影響が及ぶおそれがある。
政府関係者は「当面は状況を注視するしかない」と語る。「仮に数週間で戦闘が終わっても、インフラが損傷していれば輸出入がすぐに正常化するとは限らない。日本への影響はタンカーの運行が滞るかどうかが大きい。世界全体の需給の中で他の供給がどこまで補えるかだ」と指摘する。
日本は原油の約9割を中東に依存しており、その大半がホルムズ海峡を通過するだけに、同海域の混乱は日本経済にとって構造的な弱点を突くかたちとなる。
アモーヴァ・アセットマネジメントの神山直樹チーフ・ストラテジストによれば、イランの軍事行動は米軍などによって一定程度抑え込まれ、サウジアラビアやUAE(アラブ首長国連邦)の産油施設の被害は軽微にとどまるとの見方が、現在の市場のメーンシナリオだという。ホルムズ海峡付近で滞留する船舶も数週間で正常化するとの想定で、この場合は「一時的に石油価格が上昇しても、長期的に日本を含む世界経済への影響は大きくない」とみる。
一方、イランの報復が想定以上に強力かつ持続的となり、湾岸諸国の石油生産や輸出に3カ月以上の支障が出る場合は様相が変わる。神山氏は、日本やアジアなど湾岸産油国への依存度が高い地域にとって「問題は価格ではなく油量だ」と指摘。原油が数カ月以上届かない事態となれば、日本で8カ月分程度あるとされる備蓄が減り、電力供給が制約される可能性もあるという。価格高騰にとどまらず、生産活動そのものが制約を受けるリスクが浮上する。
原油価格の上昇は、輸入物価の上昇を通じて消費者物価指数(CPI)を押し上げる。モルガン・スタンレーMUFG証券の山口毅日本チーフ・エコノミストは「家計の実質所得を低下させ、個人消費を悪化させることから、経済にスタグフレーション的な影響をもたらす可能性がある」と指摘する。
<為替・金融政策にも影響>
為替面でも影響は無視できない。みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストは、原油価格が2026年に平均約67ドルから約90ドルへ30%超上昇した場合、輸入金額全体を約5.4兆円押し上げると試算する。100ドル超で約7.8兆円、130ドル超では約14.9兆円の押し上げとなる。100ドル以上が定着すれば、ドル/円相場見通しの上方修正が必要になる可能性もあるという。
事態が長期化した場合の金融政策への影響も小さくない。エネルギー起因のコストプッシュ型インフレは、政府が目指している需要主導型とは性質が異なるためだ。第一生命経済研究所の星野卓也主席エコノミストは「コストプッシュを通じた需要減退圧力を招く点や、経済情勢の不透明感が増す点で日銀の利上げには逆風となる可能性が高い」と話す。
原油価格を巡っては、価格の振れだけでなく、物流や供給網の復旧状況まで視野に入れなければ全体像は見えてこない。中東の緊張は、今も昔も日本経済の足元を揺さぶる構造要因であり続けている。
(杉山健太郎 編集:橋本浩)
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