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焦点:トランプ氏のベネズエラ「部分封鎖」、台湾を脅かしかねない理由

2025年12月19日(金)19時06分

 写真は、ベネズエラ沖で石油タンカーをだ捕する米軍の様子だとして米司法長官が公開した12月10日撮影の動画より。U.S. Attorney General/Handout via REUTERS

Michael ‍Martina

[ワシントン 18日 ロイター] - トランプ米大統領は、ベネズエラに部‌分的な海上封鎖措置を打ち出して同国のマドゥロ政権に対する圧力を劇的に強化した。ただ同時にそれは「中国による台湾の海上封鎖を抑止する」という、米国にとって外交安全保障政策上の最優先目標を危うくするリスクもはらんでいる。

トランプ氏は16日、‌全ての制裁対象のタンカーがベネズエラに出入​りすることを「完全に封鎖」すると表明した。マドゥロ政権の主要な収入源となっている石油収入を止める狙いがある。ところがこれは直ちに、国際法において戦争行為に等しいのではないかとの疑問を呼び起こした。

インド太平洋地域で軍事関係者が長らく懸念してきたのは、中国が台湾に自らの支配を受け入れるよう強要する手段として海上封鎖を利用する可能性だ。

中国は台湾を自国の一部とみなしており、軍事行動を正当化する上で国際法に訴える公‌算は乏しいだろう。それでも複数の専門家の話では、中国は軍事行動に出た場合、米国主導で国際的な反対の声が高まるのを防ぐために、米国によるベネズエラ海上封鎖を持ち出す可能性があるという。

米首都ワシントンのシンクタンク民主主義防衛財団(FDD)で中国問題を専門とするクレイグ・シングルトン氏は「米国がベネズエラの政治情勢を変えるために海上封鎖するなら、中国もいわゆる安全保障上の理由から台湾に対する強制的な措置を正当化できる」と指摘した。

シングルトン氏は「双方の法理論的な文脈は異なるが、政治宣伝面で利用される余地が現実的に存在する」と述べ、国際関係における前例は法律だけでなく物語(ナラティブ)によっても形成されると言及。「米政府が定義をあいまいにすると、他の場所での強要行為を非難する能力が低下する」と警告した。

ホワイトハウス高官の1人はロイターからの問い合わせに対し、台湾問題には触れず「トランプ大統​領は米国に麻薬が大量流入するのを阻止し、密輸関係者に法的責任を取らせるために米国が持つ力の全要素を⁠行使する準備ができている」とだけコメントした。

ベネズエラ産原油最大の買い手で同国寄りの姿勢を示してきた中国は18日、「あらゆる一‍方的行動といじめに反対し、主権と国家の尊厳を守ろうとする国を支持する」と主張している。

<中国批判困難に>

中国はこれまで繰り返し、台湾支配に向けた作戦の中核は事実上の海上封鎖になるとのシグナルを送ってきた。

近年中国軍は台湾周辺でこの海上封鎖を想定した演習を実施する頻度を増やしている。

台湾への海上封鎖について中国は恐らく、あくまで国内の争乱での法執行事案だと国際社会に対して演出するだろう。中国は台湾問題を、例えばロシアに侵攻されたウクライナなどと同じ国際‍紛争とみなすことを拒絶している。

複数の台湾当局者は、中国による海上封鎖は戦争行為に該当し、国際貿易に幅広い悪影響‍を及ぼすと‌訴えている。

台湾の現状を一方的に変更することに一貫して反対してきた米政府も、中国が台湾を海軍部隊で‍包囲するのは海上封鎖と同じだと主張するだろう。

トランプ政権が今月公表した最新の国家安全保障戦略では、台湾の戦略的な位置と経済的重要性を踏まえて、この地域を巡る武力衝突を抑止することは優先事項の1つだとされた。

カーネギー国際平和財団で中国の海上権力を研究しているアイザック・カードン上席研究員は、中国は対台湾の行動に関して米国が国際的な反対連合を形成するのを防ぎたがっていると分析する。

こうした中で米国によるベネズエラへの海上封鎖を巡る国際的な懸念は、中国を利することに⁠なりそうだ。

カードン氏は「最終的に米国は(国際)ルールの規範的な質を大きく損なっている。国際法が他の主体の行動を抑制してくれるという信頼への重大な打撃だ」と説明。ベネズエラに対する米国の措置は、中国に同じ行動を取る格好の口⁠実を与えかねないとの見方を示した。例えば、中国が、台湾にとって重要な‍天然ガスを積んだ船舶を拿捕(だほ)するような展開も予想されるという。

また複数の専門家はロイターに、カリブ海に米海軍艦艇が長期間配置された場合、台湾海峡における有事に対する米海軍の即応能力が損なわれる恐れもあると語った。

国際法では戦時の海上封鎖は認められているが、それには厳しい​条件がつく。

クリーブランド州立大学法科大学院の海事法専門家ミレナ・ステリオ氏は、米国がベネズエラに全面的な海上封鎖を行えば、米国がベネズエラと武力紛争状態にあるという明確な証拠がないため、違法となる公算が大きいと述べた。

ステリオ氏は「米国の海上封鎖により、中国の台湾封鎖を批判するのが難しくなる。国際法は全ての国家に適用される以上、米国は他国がやっていることをとやかく言うのはつじつまが合わなくなる」と解説した。

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