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アングル:来るAI端末競争、オープンAIはまず軽量・タスク特化型から

2025年12月11日(木)17時25分

写真はオープンAIのロゴ。2024年5月撮影。REUTERS/Dado Ruvic

Krystal Hu

[10日 ロイター] - 対話型の生成人工知能(AI)「チャットGPT」を開発している米オープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)とアップルの伝説的デザイナーのジョニー・アイブ氏は、最も期待されているAI製品の一つである消費者向けの新型ハードウェアデバイスを共同開発している。この開発事業はオープンAIが既に65億ドルを投じている。

現在、試作デバイスが社内で出回っており、業界全体は元祖チャットGPTが登場した魔法の瞬間を再現できるかどうか注目している。

事情に詳しい複数の関係者の話によると、以下のようなことが分かっている。

簡潔だが革新的というのが中核となる理念だ。電源が入っているか切ってあるか、またポケットの中にあるのかテーブルの上にあるかというスマートフォンとは異なって、このデバイスは真に先を見越したアシスタントのように世界を継続的に理解するだろう。オープンAIのデバイスはいつでも存在し、いつでも感知機能を働かせているが、いつ注意を払っているのかを示す明確で分かりやすい信号を備えている。

<ヒトの動きを理解、本当に必要なものだけ>

アルトマン氏が目指しているのは人々の生活に耳を傾け、何をしているのか理解し、追加作業の大半を処理し、本当に必要なものだけを提示するデバイスだ。

このようなデバイスを実用化するため、オープンAIは巨大なクラウドベースAIシステムだけでなく、局所的に有意義なAIを作動させることが可能な小型モデルも最終的に視野に入れている。オープンAIは計算機能を大量に消費する大規模モデルで知られているが、コンパクトな「ミニ」モデルの急激な進歩が同社の開発計画を新たに形作った。

関係者によると、こうした局所モデルはいつでも音声や映像を認識しているデバイスにとって不可欠であり、プライバシーを巡る懸念への対応に役立つという。大半の人々は自分の生活の全てをクラウドに送信したいわけではないからだ。

オープンAIはそれを可能にするために新しい種類のチップを必要とするだろう。米エヌビディア製であれ他社製であれ、現在のサーバー用チップは数百万人というユーザー向けの並列処理に最適化されている。個人向けのAIデバイスは逆の条件が必要となる。つまり、消費電力を低く抑えてリアルタイムで小型モデルを動かす能力を備えた1人のユーザー向けに作られた中央演算処理装置(CPU)だ。オープンAIはまさにそうしたオンデバイス推論に最適化されたカスタムチップの開発を計画している。

このデバイス群は段階的に展開されることになる。軽量でタスク特化型のクラウドベースデバイスは早い時期に投入される。よりプライバシー重視の常時オン型デバイスはさらに時間がかかり、関係者は強力なオンデバイスコンピュータが十分に開発されるまで数年かかると見ている。

オープンAIは既に競争が激化している分野に参入しようとしている。アルファベット傘下のグーグルは今週、米アイウエアブランドのワービー・パーカーと提携し2026年に軽量のAI搭載メガネを発売すると発表した。メタは日常を継続的に記録し要約する「AIメモリー」搭載ウェアラブルを開発するスタートアップの米リミットレスを買収した。アンビエントハードウェアは各社の激しい競争分野となりつつある。

どのテック大手がこれを最初に成功させるのか、消費者が実際に常時オン型のAIデバイスを受け入れる準備ができているのか、それが次のAI時代を方向付けるだろう。

<AI普及は途上> 

米国勢調査局が実施したAI導入に関する実態調査によると、われわれはまさに今、AIの普及段階の途上にあることが分かる。企業の約57%は今後6カ月以内にAIを利用する計画がない一方で、22%は利用するかどうか分からず、利用計画があるのはわずか21%だった。AI部門に対する熱狂的な資金流入とは裏腹に、シリコンバレーの外部で実体経済の中のAI導入はまだ初期段階にあるのだ。

世界有数の投資家はアブダビ・ファイナンス・ウィーク(ADFW)で、AI関連銘柄の価値評価がファンダメンタルズを大きく上回っていると警告した。ヘッジファンドマネージャーのクリス・ホーン氏は現状を不確実性が高まりつつある「破壊的な力」と表現し、米資産運用会社フランクリン・テンプルトンのジェニー・ジョンソン最高経営責任者(CEO)はゴールドラッシュの初期段階にたとえて、実際の収益に対する影響が表れるのはまだ数年先だと述べた。

ロイター
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