ニュース速報
ワールド

マクロスコープ:政府の成長戦略会議、分科会でも積極財政派起用の動き 「城内氏中心に」

2025年12月11日(木)17時15分

写真は城内実・成長戦略相。2024年10月、東京で撮影。REUTERS/Issei Kato

Tamiyuki Kihara

[東京 11日 ロイター] - 高市早苗首相が肝いりで創設した「日本成長戦略会議」で扱う戦略分野について、テーマごとに議論を深めるために設ける分科会メンバーに積極財政派の有識者を起用する動きが出ている。来年以降の高市政権の重点政策を方向づける重要な会議体だけに、政府内からは積極財政派の影響力が増すことへの警戒感もある。ただ、高市氏自身は財政拡張懸念を背景とした長期金利上昇と過度な円安などに神経をとがらせており、積極財政派の主張がどこまで実際の政策に落とし込まれるかは見通せない。

<戦略分野を分科会で議論>

政府は11月4日、「危機管理投資」などの看板政策を実現するため、高市氏を本部長とする「日本成長戦略本部」を設置した。日本の供給構造を抜本的に強化し、強い経済力を得るための成長戦略の推進を目指すため、AI・半導体やバイオなど17の戦略分野と人材育成やサイバーセキュリティーなど8の分野横断的課題を提示。それぞれに担当大臣を配置した。

これらの議論を担うのが戦略本部の下に設けられた「日本成長戦略会議」だ。高市氏が議長を務める。同10日に開かれた第1回会合後、副議長の城内実成長戦略相は17の戦略分野について「今後、民間の有識者を交えた分科会などで議論を深めていく」と説明。年内にも第2回の戦略会議を開きたいとの考えを表明した。

<積極財政派起用への警戒感>

ただ、ここにきて分科会メンバーの選定に政府内から懸念の声が出ている。内閣官房関係者は「城内氏が積極財政派の有識者を分科会メンバーに入れようと躍起になっている」と明かす。城内氏は高市内閣の中でも積極財政推進の急先鋒と言われる。「親会」の戦略会議の委員には、クレディ・アグリコル証券の会田卓司チーフエコノミストや元日銀審議委員でPwCコンサルティング合同会社上席執行役員の片岡剛士チーフエコノミストら大胆な金融緩和と積極財政を提唱するリフレ派の論客が起用された経緯もある。

同関係者によると、政府内には「分科会が積極財政派を中心に議論することになれば、政府の成長戦略が財政規律を軽視したものになりかねない」との警戒感が広がっているという。

戦略本部事務局はロイターの取材に「分科会の設置は決定事項ではない。その進め方についても決まったことはない」とコメントした。

一方、複数の政府関係者によると、高市氏自身は足元の金利や為替の動向に危機感を強めている。片山さつき財務相も同様で、財務省関係者は「政権発足時のように勢いよく財政を吹かせるべきだとの議論は聞かなくなった」と話す。こうした中での積極財政派起用の動きに、前出の内閣官房関係者は「メンバーは城内氏を中心に選定している。積極財政派の主張が最終的にどこまで実際の政策に影響するかは今後の議論次第だ」とも語った。

高市氏は分科会や戦略会議での議論を経て、その内容を来夏に策定予定の「日本成長戦略」や「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に反映させる意向だ。

「危機管理投資」「成長投資」の戦略分野

・AI・半導体

・造船

・量子

・合成生物学・バイオ

・航空・宇宙

・デジタル・サイバーセキュリティー

・コンテンツ

・フードテック

・資源・エネルギー安全保障・GX

・防災・国土強靭化

・創薬・先端医療

・フュージョンエネルギー

・マテリアル(重要鉱物・部素材)

・港湾ロジスティクス

・防衛産業

・情報通信

・海洋

分野横断的課題

・新技術立国・競争力強化

・人材育成

・スタートアップ

・金融を通じた潜在力の解放

・労働市場改革

・介護、育児等の外部化など負担軽減

・賃上げ環境整備(中小等の生産性向上・事業承継・M&Aなど)

・サイバーセキュリティー

(鬼原民幸 編集:橋本浩)

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英、国民保健サービスの医薬品支出20億ドル増額へ 

ビジネス

補正予算案が衆院通過、16日にも成立見通し 国民・

ワールド

アングル:日銀会合後の円相場、金利反応が焦点に 相

ワールド

焦点:高まる米金融政策の不透明感、インフレ・FRB
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 8
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 9
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中