マクロスコープ:政府の成長戦略会議、分科会でも積極財政派起用の動き 「城内氏中心に」
写真は城内実・成長戦略相。2024年10月、東京で撮影。REUTERS/Issei Kato
Tamiyuki Kihara
[東京 11日 ロイター] - 高市早苗首相が肝いりで創設した「日本成長戦略会議」で扱う戦略分野について、テーマごとに議論を深めるために設ける分科会メンバーに積極財政派の有識者を起用する動きが出ている。来年以降の高市政権の重点政策を方向づける重要な会議体だけに、政府内からは積極財政派の影響力が増すことへの警戒感もある。ただ、高市氏自身は財政拡張懸念を背景とした長期金利上昇と過度な円安などに神経をとがらせており、積極財政派の主張がどこまで実際の政策に落とし込まれるかは見通せない。
<戦略分野を分科会で議論>
政府は11月4日、「危機管理投資」などの看板政策を実現するため、高市氏を本部長とする「日本成長戦略本部」を設置した。日本の供給構造を抜本的に強化し、強い経済力を得るための成長戦略の推進を目指すため、AI・半導体やバイオなど17の戦略分野と人材育成やサイバーセキュリティーなど8の分野横断的課題を提示。それぞれに担当大臣を配置した。
これらの議論を担うのが戦略本部の下に設けられた「日本成長戦略会議」だ。高市氏が議長を務める。同10日に開かれた第1回会合後、副議長の城内実成長戦略相は17の戦略分野について「今後、民間の有識者を交えた分科会などで議論を深めていく」と説明。年内にも第2回の戦略会議を開きたいとの考えを表明した。
<積極財政派起用への警戒感>
ただ、ここにきて分科会メンバーの選定に政府内から懸念の声が出ている。内閣官房関係者は「城内氏が積極財政派の有識者を分科会メンバーに入れようと躍起になっている」と明かす。城内氏は高市内閣の中でも積極財政推進の急先鋒と言われる。「親会」の戦略会議の委員には、クレディ・アグリコル証券の会田卓司チーフエコノミストや元日銀審議委員でPwCコンサルティング合同会社上席執行役員の片岡剛士チーフエコノミストら大胆な金融緩和と積極財政を提唱するリフレ派の論客が起用された経緯もある。
同関係者によると、政府内には「分科会が積極財政派を中心に議論することになれば、政府の成長戦略が財政規律を軽視したものになりかねない」との警戒感が広がっているという。
戦略本部事務局はロイターの取材に「分科会の設置は決定事項ではない。その進め方についても決まったことはない」とコメントした。
一方、複数の政府関係者によると、高市氏自身は足元の金利や為替の動向に危機感を強めている。片山さつき財務相も同様で、財務省関係者は「政権発足時のように勢いよく財政を吹かせるべきだとの議論は聞かなくなった」と話す。こうした中での積極財政派起用の動きに、前出の内閣官房関係者は「メンバーは城内氏を中心に選定している。積極財政派の主張が最終的にどこまで実際の政策に影響するかは今後の議論次第だ」とも語った。
高市氏は分科会や戦略会議での議論を経て、その内容を来夏に策定予定の「日本成長戦略」や「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に反映させる意向だ。
「危機管理投資」「成長投資」の戦略分野
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・賃上げ環境整備(中小等の生産性向上・事業承継・M&Aなど)
・サイバーセキュリティー
(鬼原民幸 編集:橋本浩)





