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アングル:スマトラ島豪雨被害、森林破壊で被害拡大か 地元に怒りの声

2025年12月03日(水)11時52分

12月2日、スマトラ島南タパヌリのバタン・トルで、鉄砲水によって押し流された丸太や木材。REUTERS

Ananda Teresia

[南タパヌリ(インドネシア) 2日 ロイター] - 11月下旬の豪雨による洪水や地滑りで死者700人余りと、2024年の大津波以来の甚大な被害が出たインドネシア・スマトラ島。現地に暮らすレリワティ・シレガルさん(62)は、これほどの惨禍をもたらした原因は森林破壊にあると、怒りの口調で訴えた。

タパヌリ地区の自宅近くにある一時避難所に身を寄せたシレガルさんは「不届き者たちが木を切り倒した。彼らは森がどうなろうと気にしていない。そして今、われわれが代償を支払っている」と話す。政府のデータによると、タパヌリ地区は死者の4分の1が発生するなどインドネシア国内で最も被害が大きい場所だ。

シレガルさんは、地滑りで家屋が土砂に埋まり、救助や救援の活動を妨げる一方、洪水が多数の丸太を海岸に打ち上げさせたと話す。「豪雨が洪水を引き起こした。だがこれだけ大量の木材を押し流すのは不可能だ。雨は木を倒す原因にはならない」と主張する。

<甚大な被害>

複数の専門家や地元自治体トップらは、先週マラッカ海峡を襲い、インドネシアのほかにマレーシアやタイにも被害をもたらした豪雨自体は、気候変動に伴う多くの異常気象の1つに過ぎないとする一方で、スマトラ島では森林破壊が他の地域に比べても大きな被害を引き起こしたと分析する。

タパヌリ地区の地元政府幹部グス・イラワン・パサリブ氏は「確かにサイクロン(に由来する)要因があった。だが森林が十分保存されていたなら、このようなひどい事態にならなかっただろう」とロイターに語った。

パサリブ氏は、森林地区の開発プロジェクトを許可したことについて環境林業省に抗議したが、無視されたと明かした。同省はロイターのコメント要請に回答していない。

報道によると、検察当局が陣頭指揮する専門チームは違法な活動が今回の災害の原因にならなかったか捜査に乗り出しており、環境林業省はスマトラ島の一部地域で流木が打ち上げられた問題で、森林伐採や鉱業、パーム農園などの産業に属する8社に対する問い合わせに動くという。

タパヌリ地区の別の地元政府幹部は、インドネシアの主要輸出品となっているパーム油を生産する農園のために自然林が伐採されたと非難する。

森林破壊監視団体グローバル・フォレスト・ウオッチのデータによると、スマトラ島北部では2001年から24年にかけて森林地帯の28%に相当する160万ヘクタールが失われた。

やはり森林破壊を監視しているヌサンタラ・アトラスの創業者デービッド・ガボー氏は、スマトラ島全体では01年から24年で440万ヘクタールと、スイスより広い面積の森林地帯が消滅したと指摘。「スマトラはインドネシアで最も森林が破壊された島だ」と述べ、地球温暖化が今回の洪水の最大要因であるといえ、森林破壊も二次的な役割を果たしたと付け加えた。

<開発の行き過ぎか>

環境保護団体JATAMが行った衛星画像の分によると、中国資本による出力510メガワットのバタン・トル水力発電所の建設が森林破壊に寄与していることが分かる。同発電所は来年稼働する予定だ。

JATAMは「この状況はもはや『異常気象』という物語だけで説明するのは不可能で、採掘産業による上流域の生態系や流域の破壊の直接的な結果として理解するべきだ」と、声明で指摘した。

ロイターは、発電所の運営企業に接触することができず、その親会社の中国企業はコメント要請に回答していない。

別の環境NGOのウォルヒは、18年にインドネシアの行政裁判所に水力発電所への事業許可取り消しを求める訴訟を起こしたものの、報道によると裁判所は19年にこの訴えを退けた。

ウォルヒは「今回の災害は自然的な要因のみならず生態学的要因、つまり政府による天然資源の管理不備によって起こった」と強調した。

JATAMの調査では、各種開発を法的に許可された森林面積は約5万4000ヘクタールで、その大半は鉱業だ。

金採掘のために許可を取得した企業の1つはロイターに、洪水と同社の操業活動を直接結びつけるのは「時期尚早かつ正確性を欠く結論だ」と述べ、原因の可能性があるとして、極端な気候や川の氾濫、流路の一部で発生した丸太の滞留に言及した。

西スマトラ州パダン市に住むユスネリさん(43)は打ち上げられた丸太について「普段はごく少数なのに、今はかつてないほど多い」と語り、自然からの警鐘と受け止めている。

ロイター
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