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アングル:気候変動研究に深刻な影響の恐れ、トランプ氏が詐欺と決めつけ

2025年10月12日(日)08時03分

 気候変動問題は、トランプ米大統領(写真)がその存在を否定してデータを抹消するなどしたことで、問題の議論が封じられ、科学的な研究が深刻な影響を受けかねないとの懸念が専門家の間で広がっている。9月23日、ニューヨークで撮影(2025年 ロイター/Al Drago)

David Sherfinski

[リッチモンド(米バージニア州) 7日 トムソン・ロイター財団] - 気候変動問題は、トランプ米大統領がその存在を否定してデータを抹消するなどしたことで、問題の議論が封じられ、科学的な研究が深刻な影響を受けかねないとの懸念が専門家の間で広がっている。

トランプ氏は先月の国連総会演説で気候変動を「詐欺」と決めつけた。報道によると米エネルギー省は職員に対し、トランプ氏の気候科学に関する見解に反する表現の使用を避けるよう指示した。

現政権はこれまでも、連邦政府全体にわたって気候変動に関する問題や用語の使用について制限、否定、禁止などの措置を講じてきた。

生物多様性センターのジーン・スー氏は「これは科学全体に対する大規模な検閲であり、気候科学そのものの検閲でもある。言葉を抹消するということは、報告書を抹消し、事実を消し去るということだ。事実を伝える報告書にはこれらの言葉が必ず含まれているからだ」と述べた。

エネルギー省のある部署では「排出」や「気候」といった用語を含む禁止用語の一覧を記した新たなメモが回覧されたと報じられたが、同省はこのような指示を出した事実はないとしている。

科学を擁護する人々は警戒感を募らせている。スー氏は「われわれの司法制度や環境擁護活動にとって非常に深刻で、しかも驚くほど致命的だ。一つ一つは小さく見えても、積み重なれば致命傷になる」と危機感を示した。

<禁止用語>

米政治サイトのポリティコによると、エネルギー省の職員らは気候変動に関連する言葉や表現の使用を避けるよう新たな指示を受けた。

エネルギー省の報道官は報道を否定。「トランプ大統領とライト・エネルギー長官は透明性を維持し、気候科学に関する開かれた誠実な対話を促進することに引き続き尽力している」と述べた。

報道によると、エネルギー省のエネルギー効率・再生可能エネルギー局(EERE)が職員宛てに「使用を避けるべき言葉」のリストを送信し、対象には「気候変動」「グリーン」「脱炭素化」などの語句が含まれていた。

送られた指示には「チーム全員がこの最新版の『使用を避けるべき言葉リスト』を把握し、現政権の見解や優先事項と一致しない用語の使用を避けるよう、引き続き注意するように」と書かれていたという。使用禁止リストには「エネルギー移行」「持続可能」「ダーティーエネルギー」「カーボンフットプリント」「税控除」といった言葉も含まれていた。

スー氏は、こうした方針の影響は思想的な面だけでなく実務面にも及ぶ可能性があると指摘する。エネルギー省がこれまで太陽光や風力発電の推進、気候変動へのレジリエンス(強靱性)研究などに取り組んできたことに触れ、「これらの言葉が禁止されれば、そうした取り組みは勢いを失うだろう」と述べた。また、同省が今後グリーンなエネルギーではなく、「悪いエネルギー」を取り込む方向に傾く恐れがあると懸念を示した。

<トランプ氏は詐欺と主張>

トランプ氏が1月に大統領に返り咲いて以来、米政権は連邦政府全体で気候変動に関連する問題や表現を制限したり、過小評価したりしており、専門家によると多くの公式ウェブサイトで気候に関する情報が変更されたり削除されたりしている。

例えば、米環境保護局(EPA)は温室効果ガスが公衆衛生に有害であるとする長年の見解を覆そうとしている。また、トランプ政権は環境正義(全ての人は平等に安全で健康的な環境で暮らす権利を持つべきだとする考え方)などの問題に関連する膨大なデータやウェブページを削除したり、扱いを軽くしたりしている。

トランプ氏は国連総会の演説で気候変動を「世界でこれまで仕組まれた中で最も大きな詐欺」と切り捨てた。「国連や多くの組織が行ったこうした予測は悪意によるものが多く、全て間違っていた。こうした予測を行ったのは愚かな人々であり、そのために国富が失われ、成功の機会が奪われた」と述べた。

しかし科学界では圧倒的多数の専門家が、人間の活動によって地球温暖化が加速し、それは公衆衛生に有害だと認めている。米国科学・工学・医学アカデミー(NASEM)は9月に公表した報告書で、人間活動に伴う排出が現在と将来の健康や福祉に与える被害について、証拠は科学的に疑う余地がないと指摘した。

ロイター
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