アングル:中国新設の技能ビザ、米国から流出する人材の受け皿になるか

中国が外国人の技能労働者を呼び込む狙いで新設した査証(ビザ)「Kビザ」制度が10月1日に始動する。写真は中国と米国の旗のイメージ。3月撮影(2025年 ロイター/Dado Ruvic)
Eduardo Baptista
[北京 29日 ロイター] - 中国が外国人の技能労働者を呼び込む狙いで新設した査証(ビザ)「Kビザ」制度が10月1日に始動する。トランプ米政権がITなどの専門技能を持つ外国人労働者向けビザ「H-1B」の発給を実質的に大幅制限する措置を講じ、H-1B取得希望者の間で急きょ代替手段を探す動きが広がる中で、中国がこうした人材を米国から奪って国際競争力を高められるとの見方も出ている。
中国は国内に技能労働者が不足しているわけではない。しかし関税問題に起因する米国との貿易摩擦激化に伴って経済の先行きに暗雲が漂う事態に直面し、外国からの投資や人材受け入れを歓迎する姿勢をアピールしようとしている。
米中西部アイオワ州を拠点に移民問題を扱っている弁護士のマット・マウンテル・メディシ氏はKビザについて「象徴的な意味での影響は大きい。米国が(入国の)障壁を引き上げているのに対して、中国が引き下げるということを表しているからだ」と述べた。
<絶妙なタイミング>
8月に発表されたKビザは、科学・技術・工学・数学(STEM)分野の大学を卒業した若い外国人が対象で、特定の仕事のオファーを示されていない段階でも、入国して居住し、働くことが認められる。米国に代わる就職機会を模索している外国人にとっては魅力的に映ってもおかしくない。
一方でトランプ政権は、H-1B労働者の雇用主が支払う年間手数料を10万ドルに引き上げた。
ジオポリティカル・ストラテジーのチーフストラテジスト、マイケル・フェラー氏は「H-1Bに関して米国が自ら失点したのは確かで、Kビザにとっては絶妙のタイミングだ」と語る。
複数の移民問題専門家は、Kビザの主な魅力として、後援者(スポンサー)として雇用主を確保する必要がない点を挙げる。H-1Bの場合、このスポンサー制度が取得に向けた最大のハードルの1つとされている。
H-1Bには抽選制度も組み込まれており、年間の枠はわずか8万5000件にとどまる。さらに10万ドルの手数料が、新規申請にとって一段の妨げになりかねない。
四川大学のあるインド人学生は「柔軟で簡素化されたビザ取得の選択肢を探しているインド人のSTEM専門家にとって(米国の)代わりになる妙味のある仕組みだ」と述べた。
昨年のH-1Bの国別取得者で、インド人は全体の71%と圧倒的な比率だった。
<言語の壁>
ただKビザにも幾つかのハードルが存在する。例えば中国政府は、年齢や学歴、仕事経験などについての要件を明確にしていない。
金銭的なインセンティブや就職支援、永住権の取得、家族のビザ取得支援といった点についても詳細不明だ。中国は米国と異なり、外国人に市民権を付与するケースは非常に珍しい。
中国国務院は、Kビザの詳細や基本的な戦略に関する質問には回答しなかった。
また言葉はもう1つの壁になる。中国の大半のテック企業で使用されているのはマンダリン(北京語を基礎とする中国公用語)で、中国語を話せない人の就職機会は限られてしまう。
複数の専門家は、インドと中国の政治的対立を踏まえると、中国が受け入れるインド人のKビザ申請者は限定されるかもしれないとの見方も示した。
フェラー氏は「中国はインド人が歓迎されていると感じ、マンダリンを話さずにそれなりの仕事ができる環境を確保する必要があるだろう」と話す。
<競争力向上に貢献か>
中国がこれまでの人材獲得の取り組みで重視してきたのは、海外にいる中国生まれの科学者や華僑だった。
最近の制度には、住宅購入補助金や最大500万元(70万2200ドル)の契約ボーナスが含まれており、これらの措置は米国に拠点を置く中国人のSTEM人材を呼び戻す効果を発揮している。米政府が、こうした人材と中国政府のつながりに厳しい目を向けるようになっていることも背景にある。
先の四川大学のインド人学生は「中国ではインド人のテック人材を狙った採用活動は広がりつつあるとはいえ(海外の)中国人STEM人材を本国に帰還させるためのより強力で組織だった、資金が豊富な取り組みに比べれば、まだ大したことはない」と説明した。
Kビザを巡っては、最近シリコンバレーのテック企業から仕事のオファーを受けたある中国人STEM卒業生も、将来有望かどうか懐疑的だ。
「中国のようなアジア諸国は移民に頼らず、中国の地方政府は国内の人材を引き寄せるための多くの手段を持っている」という。
米国が抱える移民は5100万人超と人口の15%に当たる一方、中国に滞在する外国人は100万人程度で人口の1%にも満たない。
それでもフェラー氏は「中国が世界的なテック人材のごく一部でも呼び込めれば、最先端技術分野で競争力を高められるだろう」と述べた。