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ミラン氏の「移民減がインフレ抑制」、引用された研究者が反論

2025年09月29日(月)08時54分

 9月26日、 米連邦準備理事会(FRB)のミラン理事(写真)が、トランプ米大統領による移民取り締まり強化が住宅需要を低減し、インフレ率を鈍化させると主張したことを巡り、根拠として挙げられた研究を手がけたマサチューセッツ工科大の経済学者アルバート・サイツ氏は影響が誇張され過ぎていると反論した。米議会で4日撮影(2025年 ロイター/Elizabeth Frantz)

Ann Saphir

[26日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)のミラン理事が、トランプ米大統領による移民取り締まり強化が住宅需要を低減し、インフレ率を鈍化させると主張したことを巡り、根拠として挙げられた研究を手がけたマサチューセッツ工科大の経済学者アルバート・サイツ氏は影響が誇張され過ぎていると反論した。

ロイターからの問い合わせ後、FRBはミラン氏の22日の講演原稿を修正し、住宅需要低減とインフレ率鈍化の推定値を「大規模な準ランダムな移民ショック」に基づいて試算したことを明らかにした。根拠としたのは、1980年にキューバからの難民が米南部フロリダ州マイアミ地区へ大量流入し、マイアミ地区の住宅賃貸価格に影響を与えたことを分析したサイツ氏の2003年の研究だ。

この研究では、都市人口の1%に相当する移民流入は、その都市の家賃を約1%押し上げるとした。一方、サイツ氏は移民流入が減った場合には家賃が低下傾向になるとの見解には異論がないとロイターに語った。

ただ、ミラン氏はサイツ氏の計算式を踏襲せず、全米の人口である3億4000万人を分母に使う代わりに、約1億人の全米での推計賃貸世帯数を当てはめて推計した。その結果、トランプ政権の移民取り締まり強化によって移民純流入がゼロになれば家賃のインフレ率を年1%ポイント押し下げると主張したが、これはサイズ氏の手法を用いた場合と比べて約3倍の影響が出るとの結果になった。

これに対し、サイツ氏は「正しい数値で計算すると3億4000万分の1となり、つまり年約0.29%になる」と反論した。

サイツ氏は消費者物価指数(CPI)に占める住宅の割合が約3分の1であることを考慮すると、インフレ率全体への影響は最大でも0.1%ポイントにとどまると指摘。「人口増加が住宅価格に影響を与えるのは明らかだが、その規模は金融政策の大幅な変更を正当化するほどには大きくない」と反論した。

ミラン氏の修正後の講演原稿では、移民取り締まり強化によってCPIの家賃インフレ率が2027年までに2%ポイント低下するとの予測を維持。これにより、個人消費支出(PCE)物価指数を28年早期までに前年比で0.4%ポイント押し下げることになり、FRBの政策金利を0.50%引き下げることが正当化されると訴えた。

ミラン氏は「他の予測者らは移民政策が家賃インフレ率に与える重大な影響、それは上昇局面と、現在の下落局面の両面で過小評価していると思う」とし、FRBの政策金利は適正水準より2%ポイントも高すぎると主張した。FRBが金融政策を決める連邦公開市場委員会(FOMC)への出席メンバーのうち、ミラン氏を除く18人の間では、この見解への賛同者は皆無だ。

ロイター
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