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焦点:米同盟国のパレスチナ国家承認、トランプ氏のイスラエル政策試す

2025年09月25日(木)13時55分

ガザ戦争をめぐる米国に対する国際的な不満が今週、国連総会で表面化した。写真はフランスのマクロン大統領。9月23日、ニューヨークの国連本部で撮影(2025年 ロイター/Eduardo Munoz)

Matt Spetalnick

[ワシントン 23日 ロイター] - ガザ戦争をめぐる米国に対する国際的な不満が今週、国連総会で表面化した。米国の同盟国がパレスチナ国家を承認し、トランプ米大統領の中東政策は大きな試練に直面している。

トランプ氏は2期目の大統領に就任する際にイスラエルとハマスの戦争を早期に終結させると約束したが、イスラエル軍がパレスチナ自治区で攻勢を強めるのを傍観しているようにますます見える。そしてトランプ氏は中東で米国の最も親密な同盟国であるイスラエルを押しとどめるのをためらったままでいるのだ。

イスラエルのネタニヤフ首相は今月初め、カタールでのハマス指導者に対して攻撃を仕掛けてトランプ氏に不意打ちを食らわせた。この攻撃はトランプ政権が進めていたガザ停戦と人質解放交渉を実現させようとしたこれまでの試みの失敗をほぼ決定的にした。

イスラエルはその後ガザ市で地上攻撃を開始し、世界中から人道危機の拡大に対する非難が高まっている状況で、米国は地上攻撃に異議を唱えずに容認した。

そして「ハマスへの贈り物になる」というトランプの警告を無視し、英国、フランス、カナダ、オーストラリアなどの米国の同盟国は、国連総会の開催前や開催中にパレスチナの国家承認を発表し劇的な外交政策の転換を示した。

ワシントンのシンクタンク「中東研究所」の上級研究員ブライアン・カトゥリス氏は「トランプ氏は中東地域で、とりわけイスラエル・パレスチナ問題に関して主立った何の進展も成果も挙げられていない。実際は彼の就任時よりも事態が悪化している」と語った。

2年近く続いている紛争の終結が一段と遠のいている状況で、ノーベル平和賞に値する偉大な和平仲介者だとするトランプ氏が返り咲いて以来繰り返してきた主張に対して懐疑的な見方が出ている。

フランスのマクロン大統領は23日、もしもトランプ氏が本当にノーベル賞の受賞を望んでいるのならばガザの戦争を止めさせるべきだと述べた。フランスのテレビ局の取材に「行動できるのは米大統領だけだ。なぜなら、われわれはガザで戦争継続を許している武器を供給していないからだ。」と述べた。

ある専門家たちによると、トランプ氏がネタニヤフ氏に対して積極的に米国の影響力を行使しようとしないのは、この紛争がロシアのウクライナ侵攻と同様に、トランプ氏が考えたよりもはるかに複雑で解決が難しいと理解したからだという。

別の専門家たちによると、ネタニヤフ氏は自らの利益とイスラエルの国益だと考える状況に沿って行動することが暗黙に認められていると受け止めており、米大統領が事態を変えられるためにできることがほとんどないという。

さらに別の観測によると、トランプ氏は盟友である保守派活動家チャーリー・カーク氏の殺害事件、ジェフリー・エプスタイン氏のスキャンダルの余波、大統領が治安対策任務として民主党主導の都市に州兵を派遣したことのような国内問題に目を向けていて中東から注意をそらされている可能性がある。

ホワイトハウスはコメント要請にすぐに応じなかった。

<トランプ氏は影響されず>

トランプ氏は最近ガザにあまり関与していないように見えるが、23日に国連の傍らでサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、エジプト、ヨルダン、トルコ、インドネシア、パキスタンの首脳らと会談した。

アクシオスによると、トランプ氏はハマスを関与させない戦後のガザ統治案を提示し、治安維持のためにアラブ・イスラム諸国に対して軍隊派遣に同意するよう求める予定だと見込まれるという。

トランプ氏は時としてネタニヤフ氏の戦争遂行対応に不満を示したが、23日の国連演説でイスラエルに対する強力な支持を後退させたり、他国のパレスチナ国家承認に影響されたりすることはないと明確に述べた。

フランス、英国、カナダ、オーストラリアやその他の国はパレスチナの国家承認が「二国家解決」の可能性を維持し、ガザ戦争の終結に役立つと主張している。

国連で演説した各国首脳はトランプ氏を直接的に非難しなかったが、専門家の一部は米大統領への明確なメッセージがあったと見ている。

米国はイスラエルの主要な武器供給国であり、歴史的に国連やその他の国際機関で外交的な盾となってきた。米国は先週、ガザの即時・無条件・恒久的停戦を求める安保理の決議案に拒否権を行使した。

どれだけ多くの国がパレスチナの独立を承認しても、国連に完全に加盟するために安保理の承認が必要であり、米国が拒否権を持っているのだ。

<アブラハム合意は危機に直面か>

それでも一部の専門家はネタニヤフ氏が29日、トランプ氏の大統領再就任後で4度目となる訪米をする際、トランプ氏の忍耐が尽きる可能性を排除していない。

イスラエルのドーハ攻撃は「アブラハム合意」に湾岸諸国がさらに参加してほしいというトランプ氏の期待を打ち砕いた。「アブラハム合意」はトランプ氏が第1次政権時の2020年に主導し、イスラエルとUAEやバーレーンと国交正常化を実現した。

イスラエルは現在、国際社会のパレスチナ国家承認の動きに対する怒りにあおられたかのように、ヨルダン川西岸占領地の一部併合を検討している。

イスラエル史上最も右派的なネタニヤフ政権は「パレスチナ国家などは存在しない」と宣言し、23年10月7日のハマスのイスラエル攻撃に対する戦闘を継続している。イスラエル側の死者は約1200人で、地元保健当局によると、ガザはこれまでに6万5000人以上が死亡したという。

UAEはもしイスラエルがヨルダン川西岸の併合を進めれば、アブラハム合意から脱退すると警告している。

中東の多くの専門家によると、こうした動きはサウジアラビアが参加する道も閉ざすだろうという。ネタニヤフ氏が前進するためにトランプ氏の承認が不可欠と思われるが、トランプ氏はこれまで態度を明確にしていない。

*脱字を補って再送します。

ロイター
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