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アングル:米政権、カーク氏射殺で「若者票動員マシン」の後釜探し

2025年09月22日(月)11時56分

トランプ米政権は、射殺された保守系活動家チャーリー・カーク氏が築いた強力な「若年有権者動員マシン」の維持に躍起になっている。写真はカーク氏の追悼式に集まった女性ら。9月21日、アリゾナ州グレンデールで撮影(2025年 ロイター/Daniel Cole)

Nandita Bose Tim Reid Nathan Layne

[ワシントン 21日 ロイター] - トランプ米政権は、射殺された保守系活動家チャーリー・カーク氏が築いた強力な「若年有権者動員マシン」の維持に躍起になっている。事情に詳しい関係者2人が語った。

カーク氏の死去により、最も影響力のある右派政治組織の1つ、「ターニング・ポイントUSA」の指導部に空白が生じた。別の関係者によると、ホワイトハウスは水面下で、今後はバンス副大統領が若い有権者と直接関わっていく案について「予備的な議論」を行っている。

ターニング・ポイントUSAの創設者であるカーク氏は昨年の大統領選挙で、特に若い男性有権者のトランプ氏支持率の押し上げに貢献したとして、同氏から高い評価を受けた。この層の支持率は2020年から7%ポイント上昇し、46%に達していた。

来年の中間選挙で議会過半数維持を目指す共和党にとって、若年層の投票率は鍵を握るとみられている。

ターニング・ポイントは18日、カーク氏の妻エリカ氏が新たな最高経営責任者(CEO)に就任すると発表した。亡き夫と同じキリスト教の信仰と保守的な信念を持つ実業家のエリカ氏は、夫の死直後のビデオメッセージで、若い米国民を保守的な大義に呼び込むという夫の使命遂行に一層力を入れると誓った。

とはいえカーク氏の死はターニング・ポイントが、最も強い影響力とカリスマ性を持つスポークスマンを失ったことを意味する。全米の大学キャンパスで大勢の聴衆を集める類まれな能力も失われた。

<親友、バンス副大統領>

ホワイトハウスは、カーク氏の死によって生じた空白を埋めようと急いでいるという印象を与えないよう気を配っている。ケリー報道官は「チャーリー(・カーク氏)は、歴史的な若年有権者層の支持獲得において重要な役割を果たし、11月のトランプ氏(の大統領選)圧勝に貢献した」と語った。

トランプ、バンス両氏は、21日にアリゾナ州で行われたカーク氏の追悼式で弔辞を述べた。ホワイトハウス当局者は書面で、バンス氏の「チャーリーの死に対する反応は政治的なものではなく、個人的なものだ」と強調する。

3人目の関係者によると、バンス氏自身を含む政権幹部の間で、次世代の保守派を積極的に動員することによってカーク氏が築いた勢いに弾みを付ける必要がある、との認識が強まっている様子だ。

バンス氏が担う正式な役割はまだ決まっていないが、今年から始まる大学のキャンパスツアーが含まれる可能性があると、この関係者は語った。

ロイターは、こうした議論がホワイトハウス内に限られたものか、あるいは若い保守運動指導者らにも広く共有されているのかを確認できなかった。

ターニング・ポイントの広報担当者、アンドルー・コルベット氏は、若年有権者の動員におけるバンス氏の役割についての話し合いに自分は加わっていないと説明した上で「JD(・バンス氏)はその役割にぴったりだ」と指摘。「彼はミレニアル世代であるだけでなく、史上最も若い副大統領の1人でもある。チャーリー・カーク氏の親友であり、チャーリーもJDが大好きだった」と述べた。

ターニング・ポイントの現メンバーおよび元メンバー、そして共和党の若い有権者グループの指導者ら十数人に取材したところ、多くが41歳のバンス氏がより重要な役割を担うことを歓迎すると答えた。

3人目の関係者によると、ホワイトハウスは、バンス氏の親しみやすさ、デジタルへの精通ぶり、そして個人的な経歴――アパラチア地方の貧しい家庭で育ち、海兵隊員を経てエール大法科大学院に進学――が、若い有権者とつながるのに適しているとみている。

同情報筋は、バンス氏はZ世代が信頼するプラットフォームで、Z世代に響く口調で話せるのも唯一無二の特徴だと言い添えた。

全米青年共和党連盟のヘイデン・パジェット会長は「バンス氏は素晴らしい資産になるだろう。我々と年齢が近いのも強みだ」と語った。

<タイラー・ボウヤー氏>

ロイターが取材した人々の大半は、ターニング・ポイントの最高執行責任者(COO)であるタイラー・ボウヤー氏の重要性も強調した。同氏は、若い有権者を投票所に呼び込むという草の根活動の立案者だ。

共和党支持の大学生の団体「カレッジ・リパブリカンズ・オブ・アメリカ」のウィル・ドナヒュー会長は「チャーリー(・カーク氏)はターニング・ポイントのフロントマンであり、資金調達マシンであり、組織の設計者だった。タイラー氏は(政治部門である)ターニング・ポイント・アクションの現場における成功を支えた頭脳だ」と説明した。

この活動は1億ドルの資金と数千のキャンパス支部に支えられており、カーク氏亡き後も続くと支持者らは言う。ボウヤー氏らは既にペンシルベニア、ウィスコンシン、アリゾナなど激戦州の下院選挙区に狙いを定めて計画を立案しつつある。

ターニング・ポイントが長年かけて構築してきた約900の大学支部と約1200の高校支部からなるネットワークは、カーク氏の死を受けてさらに強化される可能性すらあると情報筋らは言う。

ターニング・ポイントのコルベット氏は、カーク氏の死後、大学や高校から4万件の新支部設立の要請があったと語った。

<カーク氏の再現は困難>

ただZ世代有権者を専門とする世論調査専門家、ジョン・デラ・ボルペ氏は、バンス氏にせよほかの誰かにせよ、カーク氏が2012年のターニング・ポイント設立以来、若年保守派層から勝ち取ってきたレベルの信頼を得られるかどうかは疑問だと語る。

「カーク氏は、自身の理念を反映した組織を構築するのに何年もかかった。そのような文化的基盤は、容易に再現できない」と分析する。

一部の若い保守派の指導者らは、若いリベラル派らとの討論で「バズる」場面を作り出したり、トランプの政策を若者に分かる言葉に「翻訳」したりする能力は、再現が難しいだろうと話す。

ターニング・ポイントのノースカロライナ大チャペルヒル校支部代表のプレストン・ヒル氏は、1人の人物ではなく、複数の保守派が力を合わせて空白を埋める必要があると指摘。「今回の事件を機に、小さな地域密着型チャーリー・カークが何百人も誕生するだろう」と語った。

ロイター
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