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アングル:ネパール抗議デモは「Z世代の反乱」、格差や汚職に怒り

2025年09月12日(金)11時42分

 9月11日、 ネパールでSNS使用禁止措置を打ち出した政府に対する抗議デモは、暴徒化した一部参加者が議会に放火し、オリ首相が辞任に追い込まれ、豪華ホテルや高級住宅も放火の標的になった。写真は10日、黒煙を上げるカトマンズのヒルトンホテル(2025年  ロイター/Navesh Chitrakar)

Emily Schmall

[カトマンズ 11日 ロイター] - ネパールでSNS使用禁止措置を打ち出した政府に対する抗議デモは、暴徒化した一部参加者が議会に放火し、オリ首相が辞任に追い込まれ、豪華ホテルや高級住宅も放火の標的になった。背景にあったのは、世界最貧国の1つとされる同国でエリート層だけが贅沢な生活をしていることへの怒りだ。

デモは参加者の大半が10代から20歳代前半のため「Z世代による反乱」との呼び方が広まっている。ネパールでは数年来で最悪の騒乱となり、8日に参加者19人が暴動に巻き込まれて死亡すると翌日、不人気だったオリ首相が辞任を余儀なくされた。

保健省の発表によると、これまで死者は34人、負傷者は1300人余りに上っている。

Z世代のデモ指導者らは、放火した暴徒と距離を置き、彼らを侵入者と非難した。しかし複数の専門家は、ネパール社会に根付いた富の格差や政治指導層の汚職への不満の高まりがこうした暴動につながったと指摘する。

実際、議会や首相府、最高裁といった統治機関の施設だけでなく、ヒルトンやハイアット・リージェンシー、バルナバス・ミュージアム・ホテルなどの五つ星ホテルが放火された。

ネパール屈指の重要仏教遺跡で多くの観光客が訪れるボダナート・ストゥーパ近くの広大な敷地を誇るハイアット・リージェンシーは、暴徒によって損害を受けた、とホテルのフロントオフィスマネジャー、ブーシャン・ラネ氏は明かした。

ラネ氏によると、従業員や宿泊客にけがはなかった。ただ足元の政治的混乱のため、当面営業を休止する方針だ。

ガラス張りで高層建築のカトマンズ・ヒルトンにも火が放たれ、黒煙が空まで立ち上った。このホテルは昨年、ネパールの製鉄事業者から複合企業へと成長したシャンカー・グループの御曹司、シャヒル・アグラワル氏が開業した。

ヒルトンの広報担当者は、宿泊客と従業員が安全に避難し、損害を受けた施設は閉鎖されていると述べた。現在被害状況の完全な把握に努めているという。

オリ首相など政治家の自宅も襲撃されている。

<エリート層への非難>

ネパールではここ数カ月、政治指導者の子息らが高級ブランドの洋服を身につけ、高額な費用でバカンスを楽しむ贅沢三昧の生活をしているとされる動画や画像がTikTok(ティックトック)やインスタグラムなどで拡散し、Z世代による抗議運動の勢いが加速していた。

一方でネパールからは毎日、若者を中心に何千人もが経済的な機会を求めて出国し、中東やマレーシア、韓国などに向かっている。

憲法専門家で最高裁判事を引退したバララム・K・C氏はデモについて「まさに一般庶民の不満(の表れ)だ」と分析。「国の指導者には誠実に政治に取り組むことが求められるのに、自分と親族のことしか考えていない、という不満だ」と説明した。

主要政党、ネパール会議派に所属するラジェンドラ・バジャガイン下院議員は11日、自身が創設に携わったバルナバス・ミュージアム・ホテルも放火され、宿泊客は安全に避難したと明かした。

デモで死者が発生した後、バジャガイン氏は議員辞職の意向を表明するとともに、Z世代のデモ参加者に同情を寄せた。「ネパールでは汚職に絡むこの種の不満がしばらく前から高まっていた」という。

ロイター
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