アングル:英国で広がる「国旗掲揚運動」、反移民気運を反映と警戒する声も

8月27日、英イングランド地方では最近、白地に赤十字のイングランド国旗「セント・ジョージ・クロス」や、英国国旗「ユニオンジャック」が数多く掲げられている。写真は集合住宅近くに掲げられたユニオンジャック。英マンチェスター近郊サルフォードで22日撮影(2025年 ロイター/Temilade Adelaja)
Catarina Demony Vitalii Yalahuzian
[ロンドン 27日 ロイター] - 英イングランド地方では最近、白地に赤十字のイングランド国旗「セント・ジョージ・クロス」や、英国国旗「ユニオンジャック」が数多く掲げられている。このような「国旗掲揚運動」の支持者らは英国を誇らしいと思う気持ちを表現したものだと主張する一方、社会に広がりつつある反移民機運の一環ではないかと心配する声も聞かれる。
この夏の英国は移民問題で政治的な緊張をはらんでいる。ユーガブが毎月行っている世論調査では6月末以来、「移民」が「経済」を抜いて有権者の最大の懸念要素になっている。
ロンドン東部の湾曲したテムズ川に囲まれ、高層ビルなどが建ち並ぶアイルオブドッグスの横断歩道を渡っていたバーテンダーのリビー・マッカーシーさん(32)は、イングランド国旗を模して塗装された横断歩道を指して「これは私たちの旗で、誇りを持って掲げられるべきだ。他の全ての国は同じことができるのに、何の問題があるのか」と問いかけた。
英国では公的な建物にしばしば国旗が掲揚されるが、スポーツや王室関係のイベント、軍事パレードなど以外で街頭に登場するケースは滅多にない。
折しもここ数週間、難民希望者が滞在するホテルの外では抗議デモが起こった。こうした中で、国旗掲揚運動はイングランド中部バーミンガムを拠点とする団体「ウィーリー・ウォリアーズ」が始めたもようで、ソーシャルメディアを通じて拡散され、現在は複数の団体が国旗を積極的に掲げるよう呼びかけている。
ウィーリー・ウォリアーズは資金集めのサイトで自分たちを「誇りのあるイングランドの男たち」と称し、地域の誇りや歴史、自由、業績をたたえたいと説明。ただ主にウエストミッドランズ地域の都市などで見られる国旗掲揚について、それ以上の詳しい動機は明らかにしていない。
ユニオンジャックは1970年代、白人至上主義を掲げる極右政党「英国民戦線」に党のシンボルとして採用された。セント・ジョージ・クロスは熱狂的で暴力行為を行うサッカーのサポーター「フーリガン」や過激な極右主義者によって誇示されてきた。
その結果、これらの旗を示すことは愛国主義の発露とみなす向きがある一方で、移民社会や非白人社会からは攻撃対象にされることへの警戒感が出ている。
ナイジェリア出身で接客業に従事するアイルオブドッグス在住のスタンリー・オロンサイエさん(52)は、あくまで法の範囲内であれば移民政策に関して人々が個人的な意見を表明する自由は保障されるべきだと語りつつも、不安は消えない。
アイルオブドッグスを含む行政区タワーハムレッツは英国で最も住民層が多様な地域の1つで、その半数近くは英国外生まれだ。
オロンサイエさんは国旗掲揚運動が「エスカレートすれば別の事態に発展しかねない。ナショナリズムが異なる色合いを帯びる場合は懸念される」と述べた。
<「本当の目的」>
最近数週間続いた難民希望者の滞在ホテル周辺での抗議デモは、先月にロンドン北部の宿泊施設にいたエチオピアからの難民希望者が性的暴行の罪で起訴されたことも引き金になった。被告の男は容疑を否認している。
昨年夏には、イングランド北西部サウスポートで少女3人が殺害された事件の後、ソーシャルメディア上で「犯人は過激なイスラム教徒の移民」という虚偽情報が出回り、反移民を巡る複数の暴動も起きた。
スターマー首相は当時、暴動は「極右による反社会的行動」の結果だと非難した。
国旗掲揚運動についてスターマー氏の報道官は、首相は国旗を英国の伝統と価値観の象徴と考えているが、一部の人が対立をあおるために利用したいと思っていることも認識していると述べた。
首相報道官は26日、首相が経済に関する人々の不満や、不法移民の重圧が地域社会に及んでいる事態も承知していると言及した。
幾つかの自治体は、安全上の理由を挙げて掲げられた国旗を撤去している。
タワーハムレッツ区議会は私有物件での国旗掲揚は認めるものの、公共施設での国旗は外すと明らかにした。
「国旗を掲揚している一部の人々は地元出身者ではなく、外部からやってきた人の中には分断の種をまこうとする幅広い動きも存在することを承知している」と声明で述べた。
政党別支持率でトップに立つ反移民の右派ポピュリスト政党「リフォームUK」を率いるナイジェル・ファラージ氏や、野党保守党の何人かの議員は、国旗掲揚運動を支持。保守党有力政治家のロバート・ジェンリック氏はX(旧ツイッター)で、国旗を撤去するのは「英国ヘイトの自治体」だと主張した。
欧州の極右勢力を支持している米実業家イーロン・マスク氏も26日、Xにイングランド国旗の画像を投稿した。
アイルオブドッグスで多くの国旗が掲げられているのは、政府が難民希望者の滞在先として指定し、周辺で抗議デモが起きているブリタニア・ホテルの近くだ。インド出身の地元住民シリヤ・ジョシさん(26)はこうした国旗掲揚の「本当の目的」を考えると心配が残ると打ち明け、移民社会へのメッセージだとすれば決して喜べないと付け加えた。