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マクロスコープ:韓国大統領あす来日、実用外交で「貿易新時代」は可能か

2025年08月22日(金)08時13分

 8月23日、韓国の李在明大統領(写真)が来日する。6月4日、ソウルで代表撮影(2025年 ロイター)

Tamiyuki Kihara

[東京 22日 ロイター] - 韓国の李在明大統領が23日、来日する。石破茂首相は首脳会談や夕食会を通じ、日韓関係の安定的な発展に向けた関係構築を目指す方針だ。数年前には「戦後最悪」とまで言われた両国関係は「新時代」に入るのか。貿易や直接投資など経済活動の観点から現在地と見通しを探った。

今年は日韓国交正常化60周年の節目となる。罷免された尹錫悦前大統領に代わって6月に就任した李大統領は、3年ぶりの革新(進歩)系大統領だ。同じく革新系だった文在寅政権(2017―22年)下では元徴用工問題などに端を発し、日本が対韓輸出規制を強化。非難の応酬となった。

ただ、李大統領の対日姿勢は文氏とは異なるとの見方が大勢だ。韓国の東亜日報によると、韓国大統領が就任後、訪米前に来日するのは初めて。「実用外交」として日米韓の連携を重視している証だとしている。

読売新聞は21日、李大統領の単独インタビューを配信。その中で李大統領は日本について「とても重要な存在だ。韓国も日本にとって有益な存在になれると思う。双方にとって利益になる道を発掘して、協力できる分野を広げていかなければならない」と語っている。

<対日輸出入は回復、投資はブームに>

両国関係は経済面で紆余曲折をたどってきた。

日本貿易振興機構(JETRO)の資料によると、韓国の日本からの輸入額は2011年の683億ドルをピークに、20年には460億ドルにまで落ち込んだ。対日輸出も11年の397億ドルがピークで、輸入とほぼ同じ傾向を示す。

韓国が日本からの輸入に頼っていた工業製品の部材や製造装置などの国産化が進んだことに加え、文政権下で反日感情が高まり「ノージャパン運動」が広がったことも一つの要因とされる。

その後、文政権の末期となった22年には輸入が547億ドル、輸出が306億ドルまで回復。多少の上下はありながら、24年も同等の水準を維持している。

一方、日本の対韓直接投資も活発だ。12年に素材関連の生産拠点設立ブームなどで過去最高の38億5000万ドルとなった投資額は、20年に6億ドルにまで落ち込んだものの、24年には18億ドルに再び急伸。半導体関連の投資が牽引したほか、小売り、飲食業の進出が回復したことも数字を押し上げ、「第6次対韓直接投資ブーム」とも言われるほどの堅調さだ。    

JETRO調査部アドバイザーの百本和弘氏は「議会で与党が多数を占めるなど、いまの韓国は政治的に安定しており、(世論喚起のために)歴史問題などで日本を叩く必要がない」と分析。「日韓で安心して仕事ができる環境になっている」と話す。

<今後の見通し>

ただ、李大統領就任後も韓国軍が7月に竹島(韓国名:独島)に関する軍事訓練を実施。8月15日には竹島周辺で韓国調査船がワイヤーのようなものを海中に投入したとして、日本政府が「竹島は日本固有の領土だ」などと抗議を申し入れた。経済面では良好に映る日韓関係だが、根深い問題がくすぶるのも事実だ。

竹島は韓国が実効支配し、日本も領有権を主張している。

今後の見通しについて、百本氏は「米中関係が難しい局面にある中、先端半導体分野では中国に対する韓国の優位が当分、続くだろう。中長期的にみても、韓国はいまの市場規模を維持できる可能性が高く、それに伴って日本からの投資も続くのではないか」と指摘。「政治が経済の足を引っ張らないことが重要だ」と語る。

(鬼原民幸 編集:橋本浩)

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