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焦点:トランプ氏のイラン攻撃は「最大の賭け」、リスクも未知数

2025年06月22日(日)19時22分

 トランプ米大統領は21日、イランの核施設3カ所に空爆を行い、イスラエルによるイランへの攻撃に直接参加する前代未聞の決断を下した。写真はイラン攻撃に関する演説を終えたトランプ氏(中央)(2025年 ロイター/Carlos Barria)

(見出しを修正しました)

Matt Spetalnick

[ワシントン 22日 ロイター] - トランプ米大統領は21日、イランの核施設3カ所に空爆を行い、イスラエルによるイランへの攻撃に直接参加する前代未聞の決断を下した。かねてから回避すると公言してきた大規模な対外戦争への介入に踏み切ったことになるが、1期目も含めた外交政策上で最大の賭けとなり、リスクと未知の結果を招く恐れもある。

アナリストらは、米国の攻撃参加を受けてイランが取り得る報復措置として、世界で最も重要な原油の大動脈であるホルムズ海峡の封鎖、中東地域の米国や同盟国の軍事基地攻撃、イスラエルへのミサイル攻撃強化、世界各地の米国やイスラエルの関連機関に対する親イラン組織の攻撃などを挙げる。

こうした動きは、トランプ氏の想定よりも広範囲で長期的な紛争へエスカレートする恐れがあり、米国がイラクとアフガニスタンで続けた「永遠の戦争」を想起させる。

民主党政権と共和党政権で中東交渉を担当したアーロン・デービッド・ミラー氏は、イランの軍事力はかなり弱体化したが、「彼らにはあらゆる非対称的な手段で対抗できる。これはすぐには終わらないだろう」と懸念する。

ホワイトハウス高官によると、トランプ氏はイランが核合意をまとめる気がないと確信し、核施設への攻撃が「正しいこと」だと判断し、「成功の可能性が高い」と確信した上でゴーサインを出したという。

<残る核の脅威>

今回の攻撃ではナタンズ、イスファハン、フォルドゥの3施設に地中貫通弾(バンカーバスター)を投下。トランプ氏は「大成功」を収めたと表明した。それでも一部の専門家は、イランの核開発計画が何年も後退した可能性はあるが、脅威は依然として解消されていない可能性があると指摘する。

イランは核兵器開発を否定し、計画は純粋に平和的な目的であると主張している。

超党派団体、米軍備管理協会は今回の軍事行動を受け、イランが核兵器は抑止力として必要で、米国は外交に関心がないと判断する可能性が高いと指摘。「軍事攻撃だけでは、イランの幅広い核に関する知見を破壊できない。攻撃はイランの核開発計画を後退させるだろうが、その代償として核活動を再開するというイランの決意を強めることになる」と述べた。

フロリダ国際大学のエリック・ロブ助教は、イランの次の動きはなお未知数だと述べ、報復措置の一つとして、地域内外における米国とイスラエルの「ソフトターゲット」への攻撃も考えられると予想。一方で、弱い立場に追い込まれるが、イランが交渉のテーブルに復帰する可能性もあると述べた。

イラン外務省は22日未明に声明を発表し、「米国の軍事的侵略に全力で抵抗することは権利であると考える」と警告した。

カーネギー国際平和財団のアナリスト、カリム・サジャドプール氏は「トランプ氏は今こそ平和の時だと述べた。イランが同じように見るかどうかは不明で、可能性も低い。これは46年にわたる米国とイランの戦争を終わらせるというより、新たな章を開く可能性が高い」とXに投稿した。

<体制転換>

一部のアナリストによると、これまでイラン指導部を排除するという狙いを否定してきたトランプ政権だが、イランが大規模な報復攻撃を行ったり、核兵器製造の動きを見せれば、「レジーム・チェンジ(体制転換)」を求めざるを得なくなる可能性もある。ただ、さらなるリスクをもたらす恐れがある。

ワシントンのジョンズ・ホプキンス高等国際問題研究大学院の中東アナリスト、ローラ・ブルーメンフェルド氏は、「体制転換や民主化運動を狙ったミッションの拡大には注意する必要がある」とし、米国はこれまで中東でそうした取り組みに失敗を重ねてきたと指摘する。

米国家情報会議の中東担当副国家情報官を務めたジョナサン・パニコフ氏は、イラン指導部は体制存続が危うくなれば、直ちに「不均衡な攻撃」に出るだろうと予想するが、その結果も留意する必要があると述べた。

ホルムズ海峡の封鎖は、結果として生じる原油価格上昇や米国のインフレ高進によってトランプ氏に問題をもたらすが、イランの数少ない同盟国の中国にも打撃を与える。

また、トランプ氏はすでに議会民主党からイラン攻撃を巡り強い反発に直面しているほか、他国への介入を好まない岩盤支持層の米国第一主義運動「MAGA」派からの反発にも対処する必要がある。

トランプ氏が米軍の関与を限定的なものにしようとしても、こうした紛争の歴史はしばしば米大統領にとって意図しない結果をもたらしてきた。

特に、ウクライナやガザでの戦争を速やかに終結させるという公約を果たせなかったトランプ氏が、新たな戦線を切り開いたことで、「力による平和」というスローガンが最大の試練を迎えているのは間違いない。

シンクタンク「国際危機グループ」のリチャード・ゴーワン氏は「トランプ氏は戦争ビジネスに手を出した」とし「モスクワでも、テヘランでも、北京でも、トランプ氏が平和主義者だと言うのを信じた人はいないだろう。それはいつも、戦略というより選挙キャンペーンのように見えた」と語った。

ロイター
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