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アングル:トランプ氏のシリア制裁解除発表、米政府担当部署も「寝耳に水」で困惑

2025年05月16日(金)07時39分

トランプ米大統領が5月13日に訪問先のサウジアラビアでシリアに対する制裁を近く解除する方針を発表すると、中東地域の多くの人々が予想外と受け止めただけでなく、米政権の制裁担当部署も「寝耳に水」となった。写真は14日、リヤドで会談するトランプ米大統領、サウジのムハンマド皇太子、シリアのシャラア暫定大統領。サウジ当局提供(2025年 ロイター)

[ニューヨーク/ワシントン 14日 ロイター] - トランプ米大統領が13日に訪問先のサウジアラビアでシリアに対する制裁を近く解除する方針を発表すると、中東地域の多くの人々が予想外と受け止めただけでなく、米政権の制裁担当部署も「寝耳に水」となった。

事情に詳しい4人の米当局者の話によると、米首都ワシントンでは国務省や財務省の高官らが数十年にわたって続いた対シリア制裁を撤回するための具体的な方法をあわてて把握しようとする様子だったという。

1人の米政府高官はロイターに、ホワイトハウスは国務省ないし財務省の制裁担当部署に覚書ないし指示という形で対シリア制裁解除の準備を促していたものの、トランプ氏の解除方針発表が迫っているとは知らされていなかった、と明かした。

今回の流れは、トランプ氏にとってはいつもの動きにも見える。突然決断して劇的に発表し、側近らだけでなく実際の政策変更を行う当局者が衝撃を受けるという状況だ。

トランプ氏の発表後、米政府内では政権が重層的な制裁をどのように巻き戻していくのか、またいつそのプロセスを開始したいのかが分からず困惑が広がっている。

ある高官は「誰もが実行方法を何とか究明しようとしている」と語った。

シリアで昨年末にアサド政権が崩壊した後、国務省と財務省は政権が制裁解除を決めた際に実行の指針となる選択肢とメモを用意していた。

ただシリアのシャラア暫定大統領が以前、国際テロ組織アルカイダ系とのつながりがあった点を踏まえ、ホワイトハウス高官や安全保障担当者、一部議員などが制裁を緩和すべきかどうか数カ月にわたって議論を続けてきた。

トランプ氏のサウジ訪問前、少なくとも国務省と財務省の制裁担当部署にとっては、同氏が制裁解除を決めたとはっきり分かるサインは何もなかったという。

ホワイトハウス高官の1人はロイターに、トルコとサウジがトランプ氏に対シリア制裁解除とシャラア氏との会談を要請したと述べた。

<一筋縄でいかない手続き>

トランプ氏の決断は全く青天の霹靂というわけではなかったのかもしれない。

元財務省幹部で現在はシンクタンク「民主主義防衛財団」のエグゼクティブディレクターを務めるジョナサン・シャンザー氏は、複数のシリア政府高官が先月ワシントンに滞在し、全面的な制裁解除を熱心に働きかけていたと話す。シャンザー氏自身もシリア政府高官と面会した。

それでも対シリア制裁緩和が間近だという雰囲気はなかったようだ。

14日に行われたトランプ氏とシャラア氏の会談に関するホワイトハウスの声明によると、トランプ氏はシリアに対して、制裁解除の条件として全ての外国人テロリストに国外退去を命じることや、過激派組織「イスラム国」(IS)の復活阻止で米国に協力することなど幾つかの条件を提示した。

制裁措置の解除がすんなりと進むことは珍しく、さまざまな関係省庁や議会の緊密な協調が求められるケースも少なくない。

しかしシリアの場合、国際金融システムから切り離され、多くの禁輸措置を実行する措置が何重にも講じられている以上、特に解除までのプロセスは困難になる。

元米政府高官のエドワード・フィッシュマン氏は、大統領令や法令に基づいて発動された対シリア制裁の巻き戻しには何カ月もかかる可能性があるとしつつも、財務省には2015年の核合意の一環として対イラン制裁を解除した際の実務ノウハウがあると指摘した。

今後厄介なハードルになりそうなのが、2019年に米議会で可決され、昨年末のアサド政権崩壊直後に延長された「シーザー・シリア市民保護法(シーザー法)」だ。同法は旧アサド政権だけでなく、これに協力した外国の企業や政府も二次的制裁の対象としている。

シーザー法撤廃には議会の手続きが必要。ただ大統領が国家安全保障上の理由で制裁を停止できる権限も付与されている。

ロイター
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