アングル:激戦州アリゾナ、銅鉱山開発巡る対立が大統領選左右も
9月12日、米大統領選の激戦州アリゾナでは、資源大手の英豪系リオ・ティントと豪BHPによる銅鉱山開発に先住民族が反対しており、選挙結果を左右しかねない争点となっている。写真は「レゾリューション・カッパー」鉱山の施設。アリゾナ州スペルオルで2021年3月撮影(2024年 ロイター/Caitlin O'Hara)
Ernest Scheyder
[12日 ロイター] - 米大統領選の激戦州アリゾナでは、資源大手の英豪系リオ・ティントと豪BHPによる銅鉱山開発に先住民族が反対しており、選挙結果を左右しかねない争点となっている。銅はクリーンエネルギー移行に欠かせない重要鉱物であり、鉱山開発を巡る意見対立をの根深さが浮き彫りになっている。
両社が開発を計画する「レゾリューション・カッパー」鉱山は、米国の銅需要の4分の1以上を賄えると見られている。世界最大の銅加工・消費国である中国の牙城切り崩しを狙う米政府の取り組みにおいて、重要な役割を担いそうだ。
米地質調査所によると、米国は銅の必要量の約半分を輸入に頼っている。銅の国内産出量は2021年以来11%減少しており、国内には銅製錬所が2つしかない。
しかしレゾリューション鉱山を開発すれば、先住民族サンカルロス・アパッチが崇拝する宗教的な土地を飲み込むほどの巨大クレーターが発生する見通しだ。そのため、同州の先住民族の22部族のうち21部族とアメリカインディアン国民会議議は強い反対の声を上げている。
11日には、リオとBHPによるこの土地へのアクセス阻止を求める申し立てが米最高裁判所に行われた。両社のアクセスは2014年、環境報告書の公表を条件に米議会と当時のオバマ大統領が承認した経緯がある。是が非でも可決する必要のあった軍事費調達の法案に、土壇場で盛り込まれたものだ。トランプ前大統領は、退任直前の21年にこの環境報告書を公表したが、2カ月後にバイデン政権がこれを撤回した。
最高裁がこの件を審理するか否か、また審理するとしても、どのような形でいつまでに判決を下すかは不明だ。
11月5日の大統領選の勝者は、開発を承認することも、バイデン氏と同じく事実上凍結したままにすることもできる。2020年の大統領選の出口調査によると、アリゾナ州の人口の約5%にあたる40万人の先住民族は、民主党のバイデン氏と副大統領候補だったハリス氏を勝利に導いた。
8月29日に公表されたロイター/イプソスの世論調査によると、今年の大統領選では、アリゾナ州の有権者登録者の間で共和党のトランプ氏が民主党のハリス副大統領を僅差でリードしている。同州は選挙結果を左右しそうな数少の激戦州のひとつだ。
先住民族はこれまで民主党に投票する傾向があった。ただ米南西部の多くの部族は今年、気候変動と経済を主要な争点に挙げている。
サンカルロス・アパッチをはじめとする部族はハリス氏に対し、勝利すれば鉱山開発を阻止するよう迫っている。
「アリゾナ州で、先住民族の票が勝敗を分ける要因になるのは間違いない」と、サンカルロス・アパッチと自然保護活動家の非営利団体「アパッチ・ストロングホールド」の代表、ウェンズラー・ノージー氏は言う。「この神聖な空間は私たちの核心部分なので、先住民族は皆、この問題を見守っている」
ロイターはハリス氏とトランプ氏の陣営にコメントを求めたが、回答はなかった。
ハリス氏は2020年、アリゾナ州の先住民族部族らに対し、自身とバイデン氏が勝利すれば「決定の場に席を与える」と伝えた。サンカルロス・アパッチは21年、ハリス氏に鉱山開発を阻止するよう求め、その訴えは成功したと部族当局者はロイターに語っている。
ハリス氏は今回の選挙戦で重要鉱物についてほとんど言及していない。側近はロイターに、同氏がエネルギー関連の問題については「戦略的あいまい」姿勢を採るつもりだと説明した。
トランプ氏は大半の鉱山プロジェクトを支持してきた。同氏陣営の一部はレゾリューション鉱山開発を支持する発言をしているが、同氏自身は今回の選挙期間中にこの件について公に発言していない。
トランプ氏の鉱山開発への積極姿勢と、ハリス氏の気候変動関連政策への支持を、アリゾナ州の有権者はしっかり見ていると部族活動家は言う。
アリゾナ州立大学の政治学者、グネス・ムラト・テズキュール氏は「アリゾナ州では先住民族票を動員することが非常に重要だ。レゾリューション・プロジェクトはサンカルロス・アパッチにとって大きな争点となるだろう」と語った。
<対話>
リオ・ティントは、最近起こった山火事の後にフードバンクを支援するなど、アリゾナ州先住民族部族との関係拡大に努めている。レゾリューション・プロジェクトの従業員50人はサンカルロス・アパッチだ。
アリゾナ鉱業協会のスティーブ・トラッセル代表は、レゾリューションが開発されない場合、米国の銅輸入が増加するのが心配だと言う。中国は既に、気候変動対策に用いられるその他の重要鉱物の輸出を阻止し始めているとも指摘した。
開発しなければ「クリーンエネルギーや気候変動への対応でさらに遅れをとることになる。アリゾナ州の小さな町や先住民族のコミュニティは最も大きな打撃を受けるだろう」とトラッセル氏は語った。
レゾリューション・プロジェクトの場所に最も近い町、アリゾナ州スペリオル市のミラ・ベシッチ市長(民主党)の念頭にあるのは、こうしたジレンマだ。ハリス氏と鉱山開発の両方を支持している市長はハリス氏陣営に対し、開発を支持するよう働きかけている。
レゾリューションと連邦政府による土地交換を承認した2014年の法律では、スペリオル市にも経済開発プロジェクトのための土地利用を認めている。同市の失業率は45%に達するだけに、市長にとってこれは重要なアピール材料だ。市長は、ハリス氏陣営からまだ何ら確約は得ていないが、今後数週間にわたってこの問題を強く訴え続けるつもりだと述べた。
ベシッチ市長は「働きかけを強化するにつれ、レゾリューション・プロジェクトが正当な注目を集めるようになることを強く期待している。プロジェクトの重要性は徐々に浸透し始めている」と語った。