ニュース速報
ワールド

焦点:少子化財源に日銀ETF活用案、支援金巡り「埋蔵金」の思惑再燃

2024年04月17日(水)13時14分

 4月17日、岸田文雄政権の子ども・子育て支援法改正案に対し、近く立憲民主党が日銀保有の上場投資信託(ETF)からの分配金を財源に充てる修正案を提出する。写真は東京都内で2015年撮影(2024年 ロイター/Issei Kato)

Yoshifumi Takemoto Takahiko Wada Takaya Yamaguchi

[東京 17日 ロイター] - 岸田文雄政権の子ども・子育て支援法改正案に対し、近く立憲民主党が日銀保有の上場投資信託(ETF)からの分配金を財源に充てる修正案を提出する。医療保険の上乗せ分を代替する案だが、政府はすでに一般財源に活用しているとして否定的だ。財政が厳しい中、新たな施策への財源確保が課題となるたびに浮上する「埋蔵金」活用案。日銀保有のETFは簿価で37兆円あまりと巨額で、今後も様々な動きが出てくる可能性がある。

<支援金1兆円を肩代わり>

立民の修正案は、医療保険に上乗せして徴収する支援金を廃止し、日銀が保有しているETFから得られる分配金収入を代替財源として活用することが柱。

2024年度からの3年間で少子化対策を集中的に進める「加速化プラン」の財源3.6兆円のうち、支援金で補う約1兆円を日銀ETFで肩代わりさせることを想定している。

ロイターが確認した資料によると、日銀の機関決定を経たうえで、同行が保有しているETF(簿価37兆1160億円、昨年9月末)を政府が買い取り、対価として、現金ではなく交付国債を交付。新設する「ETF管理特別会計」にETFを付け替え、分配金のうち必要相当額を繰り入れる。

立民の試算では、日経平均株価が4万円での推移を続ければ1兆3874億円の分配金が得られる。株価が4万円から3割下落し、2万8000円となっても分配金収入は1兆1321億円と、目安の1兆円を超すとみている。

立民は、これらの修正案の実現に向け、今国会中に特別会計法の改正案を提出する構えだ。

<「検討余地ない」と首相>

ただ、「政策経費に充てるべき埋蔵金」(野党中堅)と位置付けられるETFの分配金収入は現在、日銀から国庫に納付され、すでに国の一般財源となっている。

岸田首相は16日の衆院地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会で、「仮に子ども・子育て財源に充てるとすれば、その分、国の一般財源が不足し、同額の国債を一般会計で発行する必要が生じる」と述べた。立民の代替案に対しては「財源と考える余地はない」としている。

立民案を巡り、政府関係者の1人は「株一本のソブリンファンドを作るようなものだ」と語る。「株価が下落すればかえって国民が負担を抱える」と、この関係者は言う。

一方、予算編成過程で厳しい査定を受ける要求官庁からは「日銀の保有ETFは財源として魅力」(経済官庁幹部)との声も上がる。半導体分野への利活用を期待する声も聞かれる。

ただ、いずれも今のところは「絵に描いた餅」(別の政府関係者)の状況で、与党内には「支援金負担に対する世論の反発へのさや当て。(野党の)政治利用にすぎない」(中堅幹部)との見方もある。

国会筋によると、政府提出の少子化対策関連法案は19日の衆院本会議で採決され、与党などの賛成多数で衆院を通過する見通し。関連法案の審議は参院に移る。

日銀のETF処分に関しては植田和男総裁が「ある程度時間をかけて検討していきたい」と発言している。市場売却は株価下落にもつながりかねず、保有し続けることも可能だが、市場ではETFの一部を政府が買い取り、若年層に配布するという案なども提唱されている。

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルのソマリランド国家承認、アフリカ・アラブ

ワールド

ミャンマーで総選挙投票開始、国軍系政党の勝利濃厚 

ワールド

米、中国の米企業制裁「強く反対」、台湾への圧力停止

ワールド

中国外相、タイ・カンボジア外相と会談へ 停戦合意を
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中