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情報BOX:中国の呼吸器疾患急増、現時点で過度な懸念必要ない理由

2023年12月04日(月)18時17分

中国で呼吸器疾患患者が急増し、子どもの肺炎の集団感染が発生している事態について、世界保健機関(WHO)がより多くの情報提供を求めていることが、世界中の注目を集めている。写真は11月24日、北京の小児病院の前で撮影(2023年 ロイター/Florence Lo)

Andrew Silver

[上海 1日 ロイター] - 中国で呼吸器疾患患者が急増し、子どもの肺炎の集団感染が発生している事態について、世界保健機関(WHO)がより多くの情報提供を求めていることが、世界中の注目を集めている。

WHOによると、中国保健当局は今のところ異常、ないし新規の病原体は検知していない。医師や研究者らも、国際的な警戒を要する証拠はないと話す。

しかし、台湾当局は高齢者や乳幼児、免疫力の低い人々に対して、中国への渡航を避けるよう勧告した。

中国で起きている事態についての現時点での情報や、専門家がパニックになる必要はないと考える理由は、以下の通り。

◎何が起きているのか

中国では昨年12月にゼロコロナ政策を解除して以来、初めてフルシーズンの冬を迎える中で、呼吸器疾患が増えている。

この問題は、中国北部で子どもの肺炎の集団感染が起きているとする新興感染症監視プログラム「ProMED」の報告を踏まえ、WHOが中国に詳しい情報提供を要請したため、脚光を浴びる形になった。

一部のソーシャルメディアユーザーは、子どもたちが病院で点滴を受けている写真を投稿。西安など北西部の幾つかの都市では、混雑する病院の動画が報道され、医療システムひっ迫への懸念が高まった。

◎患者数増加の程度

中国国家衛生健康委員会は11月13日の会見で、呼吸器疾患の患者が増えていると述べたが、それ以上の詳細は示していない。

WHOの中国事務所はロイター宛ての電子メールで、中国当局は「現在の患者数はコロナ禍前の直近の冬におけるピークに比べれば少ない」と説明しているとした。

◎流行している病原体

データからは、患者数増加がゼロコロナ政策解除と5月以降に流行しているマイコプラズマ肺炎など既知の病原体との間に因果関係があることを示唆している。この肺炎は、特に子どもがかかりやすい。

10月以降は、インフルエンザやRSVウイルス、アデノウイルスなどが流行している。

◎マイコプラズマ肺炎は重大な不安か

呼吸器疾患について、一つ気がかりなのはマイコプラズマ肺炎の急増で、これは他国も同様の傾向にある。

WHOで新型コロナウイルスの技術責任者を務めるマリア・バンケルコフ氏は11月29日の会見で、マイコプラズマ肺炎はWHOに対する報告義務はなく、過去数カ月間で増えたが、現在は減少しているもようだと述べた。

「われわれは自分たちが中国に持つ臨床ネットワークを通じて、世界全体、特に西太平洋と東南アジアで問題になっている抗生物質への耐性を巡る理解を深めるため、状況を追跡的に調査している」と、同氏は付け加えた。

ニューデリーのジャワハーラル・ネルー大学の疫学者はロイターに、マイコプラズマ肺炎が引き起こす感染症で一部重篤化するケースはあるが、大半の患者は抗生物質なしで回復するとの考えを示した。

◎専門家が懸念しない理由

中国の医師や海外の専門家は、現在の状況をそれほど深く懸念していない。他の多くの国でも、新型コロナウイルス対策の規制緩和後、呼吸器疾患が同じように増えているからだ。

北京のラッフルズ・メディカル・グループのセシール・ブリオン氏は「われわれが目にしているのは、現時点ではごく普通の事例に過ぎない。なぜなら従来と変わらないせきや熱などの症状が出ているからで、治療可能なのは良いことだ」と語った。

バンケルコフ氏も、患者増加は想定されていたと指摘。「世界中で呼吸器の感染症が増えている」と述べ、北半球では秋が過ぎて冬に入ろうとしているので、学童の感染が増える傾向にあると説明した。

ロイター
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