アングル:ハマスの資金調達阻止へ、イスラエルが暗号資産トロン対策

11月27日、パレスチナ自治区のイスラム組織ハマスやレバノンのヒズボラなど、イランを後ろ盾とする武装組織の資金調達を阻止するため、イスラエルが暗号資産(仮想通貨)のブロックチェーン(分散型台帳)「トロン」への対策に力を入れている。2022年11月撮影(2023年 ロイター/Dado Ruvic)
Tom Wilson Elizabeth Howcroft
[ロンドン 27日 ロイター] - パレスチナ自治区のイスラム組織ハマスやレバノンのヒズボラなど、イランを後ろ盾とする武装組織の資金調達を阻止するため、イスラエルが暗号資産(仮想通貨)のブロックチェーン(分散型台帳)「トロン」への対策に力を入れている。
トロンは、代表的な暗号資産ビットコインに比べてコストが安いため急成長を遂げている。金融犯罪専門家とブロックチェーン調査専門家、計7人への取材によると、ハマスやヒズボラに関連する仮想通貨の送金で、トロンはビットコインをしのぐ存在となった。
イスラエル当局が2021年以降に発表した暗号資産差し押さえをロイターが分析した結果、トロンのウォレットの差し押さえが急増し、ビットコインのウォレットの差し押さえが減っていることが分かった。
ニューヨークのブロックチェーン分析会社、マークル・サイエンスのムリガンカ・パトナイク最高経営責任者(CEO)は「以前はビットコインだったが、われわれのデータでは、現在これらの組織は次第にトロンを好むようになっている」と述べた。
イスラエルや米国は、ハマスやヒズボラを「テロ組織」に指定している。
ロイターの分析によると、イスラエルの国家テロ金融対策局(NBCTF)は21年7月から23年10月にかけてトロンのウォレット143件を差し押さえた。
英領バージン諸島に籍を置くトロンの広報担当者、ヘイウォード・ウォン氏はロイターの取材に対し、あらゆる技術は「理論上、疑義のある活動に利用され得る」と述べ、米ドルもマネーロンダリング(資金洗浄)に使われていると指摘した。
ウォン氏はまた、トロンはその利用者を管理することはできず、またイスラエルが指定する組織と関係はないと話した。
イスラエルが差し押さえた143件中、約3分の2に当たる87件は今年実行された。イスラエルの説明によると、うち39件はヒズボラが、26件はハマスの同盟組織「イスラム聖戦」が所有しており、56件はハマスに関連したものだった。
ハマスが10月7日にイスラエルを攻撃してから数週間後、イスラエルは知られている限りで過去最大の暗号資産口座差し押さえを発表。ガザ地区の両替会社ドバイ・コー・フォー・エクスチェンジに関連する約600口座を凍結したとした。
これに伴って資金を凍結された十数人はロイターに対し、トロンを利用していたと明かした。事業や個人的な資金管理のための取引であり、ハマスやイスラム聖戦とは無関係だとしている。
イスラエルは、ハマス、特にその軍事部門に年間数千万ドルを支援していることを理由に、ドバイ・コーをテロ組織と呼んでいる。
<抵抗の枢軸>
イスラエルのNBCTFは6月の声明で、「イランが資金提供するテロ組織が使うための」資金を差し押さえたとした。イランはハマス、ヒズボラ、イスラム聖戦の3つを、イスラエル、および中東における米国の力に立ち向かう「抵抗の枢軸」と位置づけている。
イランは以前、米国の制裁を逃れるためにトロンを利用していた。ロイターは昨年、同国が18年から22年にかけて80億ドルの取引にトロンを利用したと報じた。
ロイターが取材した専門家らによると、トロン上では仮想通貨「テザー」が支配的な地位を占めている。
テザーは世界最大のステーブルコインで、金融資産の裏付けがありドルに1対1でペッグ(固定)するよう設計されている。
トロンは仮想通貨の世界の外では知名度が低いが、テザーの取引では支配的なブロックチェーンだ。データ企業メッサーリによると、4―6月のトロン上での1日当たりのテザー取引高は平均910万件と、前年同期から70%余りも増えた。
17年にトロンを設立したジャスティン・サン氏は今年3月、出来高を水増ししたなどとして米証券取引委員会(SEC)から提訴された。サン氏は、提訴内容には認められる点が無いと述べている。
<盲点>
08年にビットコインのブロックチェーンが誕生して以来、仮想通貨はその流動性や匿名性から犯罪の温床となってきた。主要7カ国(G7)の違法金融対策組織、金融活動作業部会(FATF)は先月、テロ組織が匿名の献金を増やそうとしており、トロン上でのテザー送金の人気が高まっていると指摘した。
ロイターが取材したうちの4人は、法執行当局がビットコイン取引の追跡能力を上げたことから、テロ組織がトロンに流れていると述べた。
かつてイスラエルで資金洗浄などの対策に当たったハーバード大のシニアフェロー、シュロミット・ワグマン氏は、トロンが当初、ブロックチェーン分析会社に注目されていなかった点を挙げて「これまでは盲点だった」と語った。