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焦点:ドゥテルテ大統領の決別発言、米国は良策なく対応に苦慮

2016年10月23日(日)10時27分

 10月20日、フィリピンのドゥテルテ大統領(写真)が米国に対して敵対的発言を強め、中国を歓迎する姿勢を見せるなか、オバマ政権はその対応に苦慮している。北京で19日撮影(2016年 ロイター/Jason Lee)

[ワシントン 20日 ロイター] - フィリピンのドゥテルテ大統領が米国に対して敵対的発言を強め、中国を歓迎する姿勢を見せるなか、オバマ政権はその対応に苦慮している。米国にとって良い選択肢はほとんどなく、手段も限られているのが現状だ。

米国政府はここ数カ月、ドゥテルテ大統領の反米的な言動に目をつぶってきた。だが同大統領は20日、さらに一歩踏み込んだ。長年の同盟国である米国と「決別」し、中国と再び協力すると表明したのだ。さらには、ロシアとの協力強化をも示唆した。中国とロシアは、米国にとって戦略的な2大ライバルである。

米大統領選まで3週間を切ったタイミングでドゥテルテ大統領が投じた爆弾発言は、約70年にわたる米比同盟に対する不安をさらに募らせるだけでなく、主張を強める中国への対抗策であるオバマ政権のアジア重視政策を一段と弱める恐れがある。

具体的には、ドゥテルテ大統領の前任者と米国との間で結ばれた防衛協力強化協定(EDCA)の存続が危ぶまれる可能性がある。同協定により、米軍の艦船、航空機や兵士がフィリピンの基地5カ所を利用することが可能となっており、中国の足元で米国の軍事力を示すには不可欠な取り決めと見られている。

米当局者によると、オバマ政権はこれまで、大勢の犠牲者を出しているドゥテルテ大統領の「麻薬戦争」について非難を表明する一方で、同大統領の激しい性格に留意し、挑発しないよう慎重に対応してきた。

過去数カ月間、人権問題でドゥテルテ政権をどの程度批判していいものか、米政権内部で活発な議論が繰り広げられ、採用された慎重なトーンは一部の側近が好んだであろうものほど強くなかったと、ある米当局者は匿名で語った。

「何か言えば、彼(ドゥテルテ大統領)は暴言を吐きまくるので何も言わない方がましなように思える」と、米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)で東南アジアプログラムの副ディレクターを務めるマレー・ヒーバート氏は話す。「常に彼を非難することは、米国にとってあまり得策ではない」

ドゥテルテ大統領が自分の利益にかなうと判断し、米国側に戻ってくる可能性については、米政府内には懐疑的な見方がある。

「ドゥテルテ氏が、われわれと中国を争わせようとするありがちなゲームを仕掛けていることは明白だ」と、別の米当局者も匿名を条件にこう述べた。

米国務省のカービー報道官は20日、ドゥテルテ大統領が中国訪問中に行った米国への「決別」宣言について、同大統領に説明を求めると語った。ただし米比関係の緊密さから、同報道官は大統領の発言を「困惑している」などと述べるにとどまった。

<予測不能な言動を懸念>

米当局者は、ドゥテルテ大統領の予測不能な行動を懸念する一方、同大統領の発言とは裏腹に、フィリピンが軍事演習をまだ中止しておらず、実際に安保関係の変更を正式に要請してきていないと明かした。

関係が悪化するなか、今週末にはラッセル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)がフィリピンを訪問する。国務省によれば、この計画は以前から予定されていたものであり、ドゥテルテ大統領の発言の真意について説明を求めるという。

もし米国が人権問題でより強硬な態度に出ることを選んだ場合、フィリピンへの軍事支援を削減するか、あるいは削減回避の条件として、麻薬撲滅運動での殺害をやめるか、より慎重な司法手続きを取るよう迫ることが可能だろう。

しかしフィリピン当局者は、同国が米国の支援なしでやっていくことを示唆しており、中国とロシアへの接近は同国が他に支援を求める可能性を示すものだ。

フィリピンのロペス貿易産業相は、ドゥテルテ大統領の中国訪問中に135億ドル(約1兆4000億円)の契約が結ばれるとしているが、最終的な契約額は不明だ。米ホワイトハウスによれば、米国の対フィリピン直接投資は47億ドルを超える。

南シナ海で領有権の主張を強める中国に対抗する同盟国への支援の一環として、米国は過去2年間、巨額の軍事的追加支援をフィリピンに提供してきた。

オバマ政権で米国務次官補(東アジア・太平洋担当)を務めたカート・キャンベル氏は、人権問題で強硬路線を求めている中のひとり。ヒラリー・クリントン前国務長官が次期大統領に選出されれば、同氏は政権に再び戻る可能性があるとみられている。

「フィリピンで起きていることは、さらに大きな疑問や懸念を生み出し始めている」とキャンベル氏は指摘。「『これを無視してひっそりと軍事活動や戦略的な作戦活動を維持しよう』といった考えは通用しなくなると思う」と同氏は述べた。

(Yeganeh Torbati記者、David Brunnstrom記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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