ニュース速報
ビジネス

アングル:「高市トレード2.0」、安全運転見越す 個人は円買いも

2025年10月06日(月)16時36分

 10月6日、自民党総裁選で高市早苗氏が勝利したことを受けて、週明けの外国為替市場では円安が進行し、ドルは150円台へ急上昇した。5月4日撮影(2025年 ロイター/Dado Ruvic)

Shinji Kitamura

[東京 6日 ロイター] - 自民党総裁選で高市早苗氏が勝利したことを受けて、週明けの外国為替市場では円安が進行し、ドルは150円台へ急上昇した。しかし、高市氏が金融政策などに関して従来より慎重な姿勢を示していることや、党内調整や連立協議など不明な点が多いことから、円がこのまま一方的に売られるとの予想は少数派でもある。個人投資家の間では、早くも円を買い込む動きも出ている。

<ドル一気に3円上昇、円全面安に>

6日のドル/円は、前週末終盤から3円近い大幅な円安進行となった。日本時間の午前3時過ぎ、前週末終盤から気配値を切り上げ149円ちょうど付近で取引が始まった後は、これまでドルを売り込んだ向きの損失確定買いを相次いで巻き込み、正午過ぎには2カ月ぶり高値となる150円台へ上昇した。

自民総裁選での高市氏の勝利は、市場参加者に想定外と受け止められた。日経平均は前週末比2000円を超す上昇となるなど、東京市場は大幅な円安と株高が同時に進む「高市トレード」が久々に活況となった。日本の金利先物市場が織り込む日銀の10月利上げ確率が前週の5割台から2割台へ急低下したことも、ドル/円を買い上がる短期筋を勢いづけた。

148円付近を通る200日移動平均線は年初来、何度も上抜けに失敗した経緯があり、事実上のドルの上限とみられていたが、これをあっさり上抜けたことで「ドルは147─151円付近へレンジを切り上げた」(てらす証券アドバイザーズFXエバンジェリストの遠藤寿保氏)との声も上がった。

もっとも、大幅な値動きにも関わらず、参加者の間から高揚の声はあまり聞かれない。「目先は8月高値の150円後半を試す展開かもしれないが、米政府機関の閉鎖問題を抱えたドルが、一段と上値を追う公算は低い。ドル/円は高値圏で再びもみ合いになるのではないか」(大手銀のトレーダー)と冷静な受け止めが優勢だ。

6日の市場では、短期的な材料に追随しやすいとされる個人投資家の間で、円売りではなく、ドルの戻り売りが優勢となった。「早朝は小泉氏勝利に賭けて円を買い込んでいた向きの損失確定に伴う円売りが優勢だったが、新規の注文はほとんどが円買い。150円という節目が強く意識されている」(トレイダーズ証券市場部長の井口喜雄氏)という。

<定まらない相場観>

イベント通過後もドル/円の相場観は、依然として定まっていない。シティグループ証券チーフFXストラテジストの高島修氏は年末にかけて140円前後へ下落すると予想する一方、ふくおかフィナンシャルグループ・チーフストラテジストの佐々木融氏は155円との見方を示す。党内人事や首班指名、組閣、連立協議と難題が山積し、高市氏の掲げる政策の実現可能性が見極めにくいことも、相場観が錯綜する一因となっている。

一段の円安が見込みづらいのは、金融政策は日銀が決めること、などと高市氏が発言を修正したことに加え、決選投票を僅差で制した裏側に、戦後最長の財務相である麻生太郎・自民党最高顧問の影響が大きかったと伝わっていることも影響している。

シティの高島氏は「麻生氏は過度な財政拡張に否定的とみられ、ベセント財務長官が率いる米財務省も、日本の拡張財政には否定的な様子だ。高市氏が持論のリフレ政策をそのまま実行することは困難だろう」との見方で、年末にかけてドルが下落するとの予想を変えていない。

アベノミクス当時と国内環境が大きく異なっていることも、急速な円安が進むようなリフレ政策を打ちにくい要因として意識されている。

ふくおかFGの佐々木氏は、アベノミクス当時と異なる現在の環境下で金融緩和と財政緩和に動けば、円安圧力が強まるとみている。当時はデフレで名目・実質金利がゼロ近辺だったが、現在は高いインフレ率の下で、実質金利のマイナス幅が歴史的水準にある。

足元でアベノミクス的な政策を実施すればリフレ効果を強くしすぎ、実質金利はもっと低下すると指摘し「金融資産の半分を現金・預金で保有する家計の海外資金流出が本格的に始まる可能性もある」と警戒感を示している。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ECB、インフレリスクの変化を注視=レーン専務理事

ビジネス

米関税の影響、「不確実性は引き続き高い」=日銀支店

ワールド

ルコルニュ仏内閣総辞職、異例の短命 政局混迷深まる

ワールド

物価高の最初の原因、アベノミクスによる円安進行=村
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 2
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿すると「腎臓の検査を」のコメントが、一体なぜ?
  • 3
    更年期を快適に──筋トレで得られる心と体の4大効果
  • 4
    筋肉が育つだけでは動けない...「爆発力」を支える「…
  • 5
    一体なぜ? 大谷翔平は台湾ファンに「高校生」と呼ば…
  • 6
    「美しい」けど「気まずい」...ウィリアム皇太子夫妻…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃の「オーラの違い」が話題…
  • 8
    イエスとはいったい何者だったのか?...人類史を二分…
  • 9
    一番お金のかかる「趣味」とは? この習慣を持ったら…
  • 10
    逆転勝利で高市早苗を「初の女性宰相」へと導いたキ…
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 6
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿す…
  • 7
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 8
    更年期を快適に──筋トレで得られる心と体の4大効果
  • 9
    MITの地球化学者の研究により「地球初の動物」が判明…
  • 10
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中