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マクロスコープ:高市氏の補正予算編成、独自色どこまで 財務省は大規模化を警戒

2025年10月06日(月)10時00分

10月6日、自民党の高市早苗総裁は今月半ばにも召集される臨時国会で、長引く物価高に対応する補正予算編成に臨む方針だ。4日、都内で代表撮影(2025年 ロイター)

Tamiyuki Kihara

[東京 6日 ロイター] - 自民党の高市早苗総裁は今月半ばにも召集される臨時国会で、長引く物価高に対応する補正予算編成に臨む方針だ。診療・介護報酬引き上げや地方交付金の積み増しなどを検討するとみられるが、大規模補正となれば財政規律の観点から批判も出かねない。すでに財務省からは警戒する声も出ている。

<診療報酬引き上げなど表明>

そもそも補正予算は当初予算編成後に生じた事情の変化に対応する目的で認められる。近年では「秋の恒例行事」とも揶揄されるが、社会保障費など義務的経費の増加で当初予算の弾力性が失われる中、政権の「色」が垣間見える点で重視される面もある。

高市氏は総裁選期間中、物価高対策で多くの具体策を打ち出してきた。診療・介護報酬の引き上げや、自治体向け重点支援交付金の拡充、ガソリン暫定税率廃止などは喫緊の課題と位置づけ、補正予算での手当てを表明している。

米国の追加関税による自動車産業への影響を念頭に「年度末に向けてもし関税の影響が深刻に出てきた場合」と断った上で、「自動車税環境性能割を2年間に限定して停止する」意向も示している。石破政権下ではガソリン暫定税率廃止による税収減を補う自動車関係諸税見直しが検討されていただけに、政府内に与えるインパクトは小さくなさそうだ。

<財務省は警戒>

積極財政路線を基本とする高市氏だが、4日の記者会見では「財政健全化が必要ないと言ったことはない」とも述べ柔軟な姿勢もアピールした。そこで注目されるのが補正予算の規模だ。

2010年代後半にほぼ3兆円台で推移した補正予算規模は20年度の新型コロナ対応で73兆円に急伸。その後30兆円台を2年間続けたものの、ここ2年は13ー14兆円規模まで縮小している。

足元の需給ギャップはゼロに近づき、大企業・製造業の業況判断指数(DI)も改善傾向にある。米国関税の影響が今後どの程度顕在化するかは見通せないものの、財務省内では昨年度補正の13兆9000億円を念頭に「同規模が必要になる状況にはない」(幹部)との声が大勢だ。

とはいえ昨年度との比較で規模が縮小すれば、高市氏が強調してきた「大胆な危機管理投資と成長投資」の看板を自ら否定することにもなりかねない。別の財務省幹部は「政治家からすれば予算は見え方が大事。今回の補正も大規模なものになるだろう」と警戒する。

<見通せない野党連携、専門家は「編成遅れ」懸念>

ただ、補正予算編成が順調に進むかは見通せない。自民、公明両党が衆参で少数与党となる中、予算成立のためには野党との連携が欠かせないからだ。

高市氏のこれまでの主張から、国民民主党を連携相手として本命視する向きもある。一方、高市氏が掲げる給付付き税額控除について国民民主は慎重な姿勢を示しており、連携交渉が即座に進むとも限らないのが現状だ。

補正予算編成に向けた動きを専門家はどう見ているのか。

SMBC日興証券シニアエコノミストの宮前耕也氏は「高市氏は石破政権の路線とは一線を画している。野党との連立交渉を先行させる意向を示しており、まずは連立相手が国民民主と日本維新の会のどちらになるのかが注目だ」とした上で、「連立交渉が停滞すれば補正予算の編成には時間を要する可能性もある」と指摘する。

補正予算の規模については「昨年度補正の13兆9000億円を上回るのかどうかがポイントだ」とする一方、「総裁選で高市氏の勝利に貢献したのは自民の麻生太郎最高顧問だと言われる。麻生氏は財務相を長らく務めた経験から財政健全化にも配慮する姿勢とみられる」と説明。「高市氏の政策にも大きな影響力を持つとみられ、極端な積極財政とはならない可能性もある」と話す。

(鬼原民幸 編集:橋本浩)

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