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アングル:利回り曲線フラット化、日銀早期利上げ観測背景 限定的な動きか 

2025年09月22日(月)16時08分

 9月22日、円債市場で、イールドカーブ(利回り曲線)にフラットニング圧力がかかりやすくなっている。写真は2013年2月、都内で撮影(2025年 ロイター/Shohei Miyano)

Mariko Sakaguchi

[東京 22日 ロイター] - 円債市場で、イールドカーブ(利回り曲線)にフラットニング圧力がかかりやすくなっている。超長期金利の上昇一服に加え、日銀の早期利上げ観測で「中短期債売り・超長期債買い」のトレードが活発化していることが背景にある。ただ、一時的な需給要因が作用したとの見方もあり、継続的な需給不安や財政政策への警戒感から、フラット化は限定的との見方も根強い。

<日銀利上げ思惑でベア・フラット化>

22日の円債市場では、新発10年債利回りが一時1.665%と、2008年7月以来、17年2か月ぶりの高水準を更新した。新発2年債、新発5年債のいずれも2008年以来の水準を付けるなど、金利上昇が継続している。

19日の日銀金融政策決定会合で2人の審議委員が利上げを主張したことを受け、市場で早期利上げへの思惑が広がった。オーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)市場が織り込む10月の利上げ確率は、3割程度から5割程度に上昇した。

こうした中で新発20年債や新発30年債利回りの上昇ペースは、緩やかにとどまっており、イールドカーブにベア・フラットニングの動きがみられる。

9月上旬以降、超長期ゾーンの金利上昇に一服感がみられることもフラット化をサポートする。40年の既発債(オフ・ザ・ラン)は31年―35年ゾーンの需要の強さがうかがわれる。9回債から13回債にかけての複利ベースの利回りは7、8回債よりも低い水準となっている。

同ゾーンは黒田東彦前日銀総裁が強力な緩和策を進める中で発行された利率(クーポン)の低い国債で、生保勢が減損リスクを回避するため売却し、高利率の国債への入れ替えを進めていた。「イールドカーブ的に他年限との比較で利回り水準が膨らんで(債券価格は低下して)いたことから物色されたのではないか」(国内証券アナリスト)との声が出ている。

国内のファンド勢が、クレジットなど一般債からの入れ替えに動いたとの思惑が市場には浮上している。生保勢が簿価を下げる目的で買い戻しているとの見方もある。高いリターンを得られる株やオルタナティブの運用割合を増やす一方、債券の割合を減らして、低利率でも長いデュレーションの国債を確保する動きが観測されているという。

40年債は満期保有の投資家が多数で流動性が薄い。以前在庫を抱えていた証券会社も、足元ではさほど保有しておらず、買い手が現れると金利低下が進みやすい。その動きが25年ゾーンまで波及し、超長期債の金利上昇圧力を抑制しているとみられる。

30年債でも同様の動きがあり「国内勢が価格で70円台の低利率の国債をわざわざ買いにくるなど、利回り水準が割安とみているようだ」(国内証券債券セールス担当)との声や「25年ゾーンの利回りはデュレーション対比でリターンが高いことから、積み増した」(別のアセマネのファンドマネージャー)との声が出ている。

<フラット化を抑制する要因は残存>

ただ、ベア・フラット化は長く続かないとみる市場参加者も少なくない。三井住友銀行のチーフストラテジスト、宇野大介氏は「9月の日銀会合の声明文や植田和男日銀総裁の会見を踏まえると、景況観や政策認識は7月会合から変化はみられず、利上げ時期が早まるという証左はなかった」とみる。

金利先高観がくすぶる中、含み損を抱えたくない銀行勢や生保勢は「超長期債を積極的に買う動きにはならない」(ニッセイ基礎研究所の金融調査室長、福本勇樹氏)との指摘もある。金利リスクを落とすために短期債に需要が再び向く可能性もあるという。

需給不安も解消されたわけではない。9月24日開催予定の国債市場特別参加者会合で、市場が期待する財務省による買入消却(バイバック)が見送られ、流動性供給入札の発行減額にとどまった場合、「超長期ゾーンは再び時間をかけて売られ、地合いが悪化していく」(国内銀の運用担当)リスクが残る。

10月4日の自民党総裁選を巡り、円債市場では、高市早苗前経済安全保障担当相の勝利はメインシナリオとはみられていないものの、他の候補者が勝利したとしても、衆参両院で与党が過半数を割れる中、財政支出を含む政策対応を主張する野党に譲歩しなければならないとの見方は根強い。

足元の10年と20年の国債利回りの差(スプレッド)は100bp(ベーシスポイント)程度、10年と30年のスプレッドは150bpを超える。三菱UFJモルガン・スタンレー証券のシニア債券ストラテジスト、鶴田啓介氏は「需給不安はくすぶり続け、財政拡張の方向には変わりがないとみられる中、過去の利上げ局面にみられたような10年と20年のスプレッドが40bp程度まで縮小することは見込みにくい」と話している。

(坂口茉莉子 編集:平田紀之 石田仁志)

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