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インタビュー:USスチールへの投資110億ドル、効果は28年度以降に=日鉄副会長

2025年08月29日(金)02時08分

日本製鉄の森高弘副会長は、買収した米鉄鋼大手USスチールへの設備投資について、28年度以降は2500億円を上回る「結構な数字」で利益に貢献してくるとの見通しを示した。28日、都内で撮影(2025年 ロイター/Ritsuko Shimizu)

Ritsuko Shimizu Yuka Obayashi

[東京 29日 ロイター] - 日本製鉄の森高弘副会長はロイターのインタビューに応じ、買収した米鉄鋼大手USスチールへの設備投資約1兆6000億円について、2028年度以降は2500億円を上回る「結構な数字」で利益に貢献してくるとの見通しを明らかにした。買収費用として調達したつなぎ融資2兆円の借り換えについては、増資も選択肢としつつ、株式が希薄化しない範囲にとどめる考えを改めて示した。

日鉄は6月にUSスチールの完全子会社化を完了した。買収に投じた141億ドル(約2兆円)に加え、買収に反対していた米政府とのやり取りの中で、2028年度までに総額110億ドル(約1兆6000億円)の設備投資を約束した。

日鉄はこれまで、USスチール連結化による利益貢献を在庫評価差などを除いた実力ベースの事業利益で28年度までに年間2500億円程度になると試算。森副会長は今回のインタビューで、28年度以降は設備投資の効果が大きく上積みされるとの見方を示し、「結構な数字を目指している」と述べた。

110億ドルの投資には、ペンシルベニア州モンバレー製鉄所の熱延設備の新設、インディアナ州のゲーリー製鉄所にある「第14高炉」の改修による品質や生産性の向上、品種拡大につながる方向性電磁鋼板のライン新設、能力拡張などが含まれる。森氏は300万トン規模の電炉を新設する可能性もあるとし、USスチールの米国での粗鋼生産能力は現在の1700万トンから2000万トン程度に拡大するイメージだとした。

森氏は、買収が完了した6月から今年度末の来年3月まで9カ月間の利益貢献を年換算し、アーカンソー州に立ち上げ途上の電炉の稼働が通常ペースに乗ればUSスチールの年間の実力は1500億円程度になると説明。28年度の2500億円には1000億円程度の積み上げが必要となるが、すでに投資を行い、立ち上げ中の無方向性電磁鋼板に日鉄の技術を入れて質を上げたり、ノウハウなどを入れて操業度の改善を行うことで達成が見えてくる。森氏は「110億ドルの投資効果はその後に出てくる」とした。

日鉄はUSスチールの収益計画を含む中期計画を年内に公表する予定。

一方で森氏は「設備投資は時間がかかるが、ソフト対策であれば時間はかからない」とも述べ、日鉄の操業ノウハウなどの注入による歩留まりや品質・生産の改善に最優先で取り組んでいるとした。日鉄が東南アジア諸国連合(ASEAN)でも利益を出しているのに対し、市況がほぼ倍の米国市場でUSスチールが利益創出に苦戦してきた差は、「作り込みの技術、ソフトの差」と指摘。USスチールに派遣している社員を現在の40人から50人超に拡大することを決めたという。

日鉄はUSスチールの買収費用2兆円の返済の一部に、劣後ローンで調達した5000億円を充てる。残りについて森氏は「ハイブリッドもまだ少し余裕があるため考えるし、転換社債や社債もある。マーケットごとにいつが最適なタイミングか、金利がいくらか、円が良いかドルが良いか。全て踏まえて最適なファイナンスをしようと思う」と語った。「エクイティファイナンス(増資)もひとつのツールとしてあり得るが、既存株主にダイリューション(希薄化)しない範囲でやる」との考えを改めて示した。

USスチール自身が設備投資に充てる資金については、まずはUSスチールが賄い、限界があるなら支援することになるとした。

USスチールをめぐっては、ペンシルベニア州ピッツバーグ近郊のクレアトン・コーク・ワークス工場で8月に爆発事故が発生。森氏は、今年度のUSスチールの利益貢献800億円に「影響なしとはしない」としながらも、それほど大きくないとの見通しを示した。

*インタビューは28日に実施しました。

ロイター
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