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アングル:統計局長解任で高まる米CPIの注目度、TIPS市場に打撃も

2025年08月12日(火)08時03分

 トランプ米大統領が7月雇用統計の発表後、労働省労働統計局の局長を解任した影響で、同局が12日に発表する7月消費者物価指数(CPI)への注目度が一段と高まっている。ホワイトハウスで11日撮影(2025年 ロイター/Jonathan Ernst)

Anirban Sen Carolina Mandl

[ニューヨーク 11日 ロイター] - トランプ米大統領が7月雇用統計の発表後、労働省労働統計局の局長を解任した影響で、同局が12日に発表する7月消費者物価指数(CPI)への注目度が一段と高まっている。

7月の非農業雇用者が予想外に低調だった上に、過去2カ月分の雇用者数が大幅に下方修正されたことに不満を強めたトランプ氏は、労働統計局長だったエリカ・マッケンターファー氏の解任を1日に命令。後任がデータに政治的な要素が加わるのでないかと投資家に疑念を抱かせる人事になれば、CPIの信頼性を巡る懸念が強まり、インフレ連動国債(TIPS)市場に打撃を与えかねない。

アナリストの見立てでは、投資家が不安を感じればTIPSに要求するプレミアムが上昇し、連邦政府の資金調達コストを直撃する。TIPSは通常の米国債に比べて流動性が低いため、利回り上昇が増幅される恐れもある。

JPモルガン・チェースのチーフ米国エコノミスト、マイケル・フェロリ氏はCPIの信頼性について「これは(統計の)正確な数字にたどり着くことを巡る学問的な議論にとどまらず、TIPSにも重大な意味を持つ。現実の投資資金が危機に瀕している」と指摘した。

モルガン・スタンレーのチーフ米国エコノミスト、マイケル・ゲイペン氏もCPIの信頼性に言及。「投資家と政策担当者の双方に問題が起きる。TIPSはCPIと連動しているし、連邦準備理事会(FRB)は物価情勢を把握する必要があるからだ。シグナルの信頼性が低下すると、市場のタームプレミアアムが影響を受けるほか、適切な政策を適切なタイミングで実行できなくなる」と述べた。

<需要減少に懸念>

一般的に米国の統計の信頼性が下がった場合、投資家は単月のデータではなく、より長い時間をかけて判断しようとするかもしれない。

ただTIPSはCPIと結び付いているので、引き続きCPIを頼りにせざるを得ない。

マッケンターファー氏の解任以降、TIPSは今のところ大きく変動しておらず、期間10年の利回りは直近が1.864%と1日時点をやや上回る水準だ。

それでもTDセキュリティーズはノートに、次期労働統計局長が政治的バイアスのある人物だとみなされれば、TIPS市場は「神経質」になると記した。

モルガン・スタンレーのアナリストチームは6日のノートで「労働統計局が発表するCPIを巡る不透明感のせいでTIPSがインフレヘッジ機能を提供できなくなる状況では、全般的な需要が減少し始めるのではないか」との見方を示した。

TIPSに対する需要が落ち込むと、政策担当者や投資家が物価動向を探る手掛かりとして利用しているTIPSと通常の米国債の利回りの相関性が薄れてしまう。

ナティクシス・インベストメント・マネジャーズ・ソリューションズのポートフォリオストラテジスト、ガレット・メルソン氏は、そうした事態が生む副産物はインフレ期待の低下で、利下げを後押しすると説明。FRBの政策決定にある程度反映されてもおかしくないと付け加えた。

ロイター
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