ニュース速報
ビジネス

アングル:日経4万円定着に2つのエンジン、関税影響「出尽くし感」が焦点

2025年07月23日(水)18時20分

 7月23日、日本株の上値を抑えていた関税を巡って日米が合意、市場の目線は4―6月期の企業決算に移る。都内の株価ボード前で同日撮影(2025年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

Noriyuki Hirata

[東京 23日 ロイター] - 日本株の上値を抑えていた関税を巡って日米が合意、市場の目線は4―6月期の企業決算に移る。税率は低くなったとしても15%の関税が残る中、収益への悪影響の織り込みで「出尽くし感」が強まるかどうか。政局の不透明感による経済対策への思惑とあわせて、日経平均の4万円台定着に向けてカギを握りそうだ。

<ゲームチェンジ>

日米合意を受けて高く始まった23日の東京株式市場は、利益確定売りをこなしながら上昇を継続、1年ぶりの高値を付けた。フィリップ証券の増沢丈彦・株式部トレーディング・ヘッドは、買い戻した上で、さらにロング(買い)ポジションを取る様子がうかがえたと指摘し「ゲームチェンジが起きた」とみている。

市場で意識される上昇の「エンジン」は主に、関税合意による過度な警戒感の後退と、先行きの経済対策への思惑の2つだ。米相互関税は事前に示された25%を下回る15%で決着し、分野別の自動車関税も25%から15%に引き下げられた。

「期限前の合意を織り込んでいた投資家は果たしてどれだけいただろうか」と増沢氏は話す。交渉期限は8月1日と目されていただけに、市場にとってサプライズとなった。

加えて「(15%への)引き下げの効果は大きい」とニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジストはみる。これから本格化する決算シーズンでは今期の業績見通しに関心が寄せられるが、井出氏は「現時点では増益までは展望できないものの、マイナス幅は縮小するのではないか」と予想。「そうなれば4万円台の滞空時間は長くなるのではないか」とみている。

この日の日経平均は一時1500円高と大幅高になった。「業績予想の上振れを予想する動きだろう」と大和証券の林健太郎シニアストラテジストはみている。市場では通期での関税影響を織り込んでいた投資家が多いといい、見直し余地が生じたとみられる。

<「出尽くし感」広がるか>

企業決算では、関税の悪材料の「出尽くし感」が広がるかどうかがポイントになるとUBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメントの小林千紗日本株ストラテジストは指摘する。関税率が固まったことで「織り込むべき数字は明らかになった」との見方から、業績予想の修正に企業がどれだけ踏み込むかが重要だという。

下方修正の場合、短期的に下押しすることが想定されるが「しっかり織り込んだ数字なら改めて材料になりにくく、下押しはさほど強くないだろう。むしろ見通しがあいまいな方が、不透明感から手掛けにくくなりかねない」(小林氏)という。

23日の場中には、石破茂首相が退陣する方向との観測報道が複数伝わり、日経平均が一段高する場面があった。参院選では財政拡張的な政策を打ち出す野党が躍進した経緯があり、政治の枠組みが変わることで与党も財政拡張的な政策への傾斜を強めるとの思惑が浮上したとみられている。石破首相は観測報道の内容を否定したが、市場での思惑はくすぶり続けるとの見方は根強い。

<金利は上昇>

もっとも、足元の株高は行き過ぎとの警戒感もある。テクニカル面からは過熱感の指標となるRSIが買われすぎを示す70%を上回り73%に急上昇した。

東海東京インテリジェンス・ラボの長田清英チーフストラテジストは、株価の「金利への反応の鈍さ」を警戒する。債券市場では、関税合意や日銀の利上げ観測、財政拡張懸念を背景に、新発10年国債利回り(長期金利)は一時1.600%と2008年10月以来の水準まで上昇した。

関税率は引き下げられたものの、相互関税の発表前に比べると、高い関税がかけられているという事実は残る。金利が上がり、為替はさほど円安に進んでおらず、日本にプラスの側面は見当たらないとの指摘もある。

短期的に株高基調は続くとの思惑は根強いが「初期反応が落ち着けば、実体経済への影響を織り込みながら上値は抑えられるかもしれない」と、東海東京の長田氏は話している。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日本が「数十億ドル相当の軍事装備購入」とトランプ氏

ワールド

ウクライナ大統領が「火消し」、汚職撲滅巡り国内でデ

ワールド

EU、米高関税回避へ合意優先 報復措置も準備

ワールド

トランプ氏、市場開放なら関税「常に譲歩の用意」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:山に挑む
特集:山に挑む
2025年7月29日号(7/23発売)

野外のロッククライミングから屋内のボルダリングまで、心と身体に健康をもたらすクライミングが世界的に大ブーム

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    参院選が引き起こした3つの重たい事実
  • 2
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家安全保障に潜むリスクとは
  • 3
    レタスの葉に「密集した無数の球体」が...「いつものサラダ」に混入していた「おぞましい物体」にネット戦慄
  • 4
    アメリカで牛肉価格が12%高騰――供給不足に加え、輸入…
  • 5
    バスローブを脱ぎ、大胆に胸を「まる出し」...米セレ…
  • 6
    トランプ、日本と「史上最大の取引」と発表...相互関…
  • 7
    中国経済「危機」の深層...給与24%カットの国有企業…
  • 8
    【クイズ】億万長者が多い国ランキング...1位はアメ…
  • 9
    「カロリーを減らせば痩せる」は間違いだった...減量…
  • 10
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 4
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 5
    「マシンに甘えた筋肉は使えない」...背中の筋肉細胞…
  • 6
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウ…
  • 7
    「カロリーを減らせば痩せる」は間違いだった...減量…
  • 8
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 9
    約558億円で「過去の自分」を取り戻す...テイラー・…
  • 10
    父の急死後、「日本最年少」の上場企業社長に...サン…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中