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焦点:豊田織の非公開化、総会控え海外株主が声 妥当性を疑問視

2025年06月09日(月)13時15分

  豊田自動織機とトヨタ自動車が6月10日と12日にそれぞれ開く定時株主総会を前に、一部の海外株主から豊田織機の株式非公開化の妥当性を問う声が出ている。写真ひあトヨタのロゴ。都内で2019年10月撮影(2025年 ロイター/Soe Zeya Tun)

Maki Shiraki David Dolan

[東京 9日 ロイター] - 豊田自動織機とトヨタ自動車が10日と12日にそれぞれ開く定時株主総会を前に、一部の海外株主から豊田織機の株式非公開化の妥当性を問う声が出ている。株式公開買い付け(TOB)価格は適正ではなく、トヨタグループの創業家と経営陣が少数株主を強制排除しようとしていると問題視する。トヨタグループ側は記者会見を開くなどして説明したが、TOBへの応募を決めていない株主の理解を得られるかに関心が集まる。

<TOB価格は安過ぎるのか>

これまでに表立ってTOB価格に異議を唱えているのは、英運用会社ゼナーアセットマネジメントと香港の投資ファンドのオアシスマネジメント。いずれも豊田織機の株主だが、保有割合は明らかにしてない。

トヨタ自をはじめとするトヨタグループがトヨタ不動産を通じて3日に発表したTOB価格は1株1万6300円。豊田織機の同日終値の1万8400円を約11%下回った。

買収総額が6兆円と事前に報じられ、一定の上乗せ幅(プレミアム)を付けたTOBへの期待が高まっていたという事情はあるものの、ゼナーのデービッド・ミッチンソン最高投資責任者(CIO)はロイターの取材に対し、豊田織機の不動産や中核事業の価値評価が十分に反映されていないと話した。

豊田織機が所有する不動産や工場、設備などの有形固定資産は3月末時点で約1.5兆円(簿価)。投資調査会社スマートカーマのアナリスト、アラン・ジョージ氏はリポートで、現在の市場価格なら不動産は相当な価値があるとし、「独立した評価がなされていない」と指摘する。豊田織機の中核事業は連結売上高の7割を占める産業車両で、同社によると、フォークリフトは世界トップの市場シェアを握る。

オアシスもロイターの取材に、TOB価格の引き上げを求めて他の株主との連携も視野に経営陣と対話する方針を示した。セス・フィッシャーCIOは、TOB価格は中核事業を著しく過小評価しており、価格算定評価の前提も明示されていない上、保有資産の評価に関する開示も不十分と訴えた。

オアシスは過去、伊藤忠商事のファミリーマートへのTOB価格が低すぎるとして法的措置を取ったり、大正製薬が実施したMBO(経営陣による買収)のTOB価格が安すぎるとして法的手段をちらつかせたりするなど、経営陣に厳しく迫る「物言う株主」として知られる。

<複雑な買収スキームは豊田家のためか>

ゼナーのミッチンソンCIOは買収の手法にも疑問を呈している。「親会社と子会社のガバナンス問題の解決に向けた取り組みは歓迎する」とする一方、トヨタ自が単独で買収に乗り出さなかったことに首を傾げる。

今回の豊田織機買収は、トヨタグループ15社が出資しているトヨタ不とトヨタ自の豊田章男会長が立ち上げる新会社が主体となり、実質的にTOBを行う。新会社には、トヨタ不が普通株で1765億円、トヨタ不の会長を兼務する豊田氏が10億円、トヨタ自が優先株で7060億円それぞれ出資する。

TOBで一定数以上の株式を取得後、株式併合でスクイーズアウト(少数株主の締め出し)を行い、新会社の議決権は最終的にトヨタ不が99.5%、豊田氏が0.5%を持つ。

豊田織機の株式は現在、トヨタ自やトヨタ不などグループ5社が42.17%を保有している。TOBであと24%超を取得すれば、スクイーズアウトの決議に必要な3分の2以上を確保できる。

ミッチンソンCIOは「(買収スキームの)複雑な構造は、豊田家や豊田織機経営陣の安心感のために必要なだけで、そのような不十分な理由でこうした非効率的な取引を正当化できない」と語った。豊田氏が「少数株主の利益を守らず、グループ全体の資源を利用して豊田家の利益を優先したことが問題で、私たちは失望している」と述べた。

<「トヨタらしさを取り戻すため」>

トヨタは6日、インターネット上で運営する自社の広報媒体を通じ、豊田氏らグループ幹部がこうした疑問に答える番組を配信した。

豊田氏は、TOB価格について「株主は長期保有した中で一緒にオーナーシップを持って会社を発展させていくパートナー。長期保有の株主にプレミアムを出す」と説明。トヨタ不の取締役で、トヨタ自の執行役員も務める近健太氏は、4月に非公開化の報道が出る直前と報道前1カ月間の終値の単純平均と比べるとそれぞれ約23%、約30%のプレミアムがついているとした。

豊田氏はまた、豊田織機を非公開化する理由について、2009年にトヨタ自の社長に就いた際、リーマン・ショックによる赤字転落と大量リコールによる品質問題に直面した同社を「トヨタらしさ」という原点に立ち戻って復活させたなどと振り返り、「トヨタ『らしさ』を取り戻すため」と語った。

豊田織機は、自動はた織り機を発明した豊田氏の曽祖父・佐吉氏が創設した源流企業。トヨタ自は豊田氏の祖父・喜一郎氏が豊田織機に設置した自動車事業部がはじまりだった。

ここ数年は複数の海外投資ファンドが経営改革を求めてきた経緯があり、今回の非公開化はトヨタグループの源流企業を創業家が守るためとの見方もあるが、豊田会長は「今さらトヨタグループが創業家のものというわけではない」と強調した。

ブルームバーグによると、物言う株主として豊田織機に資本の効率化などを求めてきた米ダルトン・インベストメンツは非公開化の報道を受けて賛意を表明した。しかし、表明はTOB価格の発表前のことで、発表後の意見は明らかになっていない。ダルトンのコメントは現時点で得られていない。

企業統治を専門とする公益社団法人・会社役員養成機構のニコラス・ベネシュ代表理事は4日に日本外国特派員協会で講演し、今回の買収案件は創業家と経営陣が妥当ではない価格で少数株主を締め出そうとする「典型的な例」と指摘。「豊田織機が保有する土地やその他の資産には莫大な価値が埋もれている。TOB価格はもっと高いはずだ」と述べている。

ロイター
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