ニュース速報
ビジネス

アングル:中南米の最大手ECメルカドリブレ、フィンテックで勢力圏拡大

2024年10月06日(日)08時12分

 9月30日、ブラジルの起業家ワグネル・ディアスさん、マリアナさん夫妻は子供服ビジネスの拡大に必要な融資を、アルゼンチンの電子商取引(EC)大手メルカドリブレから受けることにした。ブエノスアイレスのメルカドリブレのオフィスで9月撮影(2024年 ロイター/Agustin Marcarian)/File Photo

Lucinda Elliott Kylie Madry

[ブエノスアイレス/メキシコ市 30日 ロイター] - ブラジルの起業家ワグネル・ディアスさん、マリアナさん夫妻は子供服ビジネスの拡大に必要な融資を、アルゼンチンの電子商取引(EC)大手メルカドリブレから受けることにした。夫妻は商品を販売する際にメルカドリブレのECプラットフォームを利用しており、同社に融資承認のためのデータがそろっていたことから、「煩雑な手続きは一切なく、お金が即座に振り込まれた」(ディアスさん)。夫妻はサンパウロでの事業設立のため総額約3万ドル(約429万円)の融資を受けたが、初回分の1万1000ドルで売上高が半年間に40%増えた。

「中南米のアマゾン」とも称されるメルカドリブレは、中南米でフィンテックや与信などの分野に積極進出。時価総額は1000億ドル超とブラジルの国営エネルギー大手ペトロブラスを上回り、中南米で最も企業価値の高い企業としての地位を確固たるものにしようとしている。

メルカドリブレはディアスさんのような顧客を取り込み、ECプラットフォームの買い手と売り手を自社のエコシステム(生態系)に囲い込んで、与信から映画まで新サービスを次々と展開している。米ウォルト・ディズニーなどと提携してコンテンツを提供し、デジタル広告収入を今年10億ドルに向けて拡大しつつある。また、売り手を支援するために配送センターを増強しているほか、人工知能(AI)を活用して融資事業を強化し、管理コストの圧縮にも努めている。

マルコス・ガルペリン最高経営責任者(CEO)はブエノスアイレスでロイターのインタビューに応じ、「エコシステムを持つという点で競争の面で非常に優位に立っていると確信している」と述べ、融資事業とEC事業が互いに相乗効果をもたらしていると説明した。「融資が増えれば、EC事業が成長する。その逆もまたしかりだ」

メルカドリブレは中南米のEC市場で先頭を走っており、アマゾンなど大手の積極的な進出をしのいでいる。フィンテック分野ではブラジルの新興ヌーバンクのような純粋なデジタル金融企業に遅れを取っているが、アルゼンチンの新興デジタル銀行ウアラには先行。傘下に決済サービス「支付宝(アリペイ)」を抱える中国のEC大手アリババの成功の再現を目指している。

ガルペリン氏は、中南米での競争の激しさを考えればフィンテック事業は順調に成長していると指摘する。中南米で急速に現金離れが起きて従来の決済方法や貯蓄手段からの移行が進む中、メルカドリブレが主要な選択肢になることが目標だという。アナリストから不良債権を抱えることについて懸念が示されていることについては、ユーザーに関して大量のデータを持っているためリスクは低減されていると反論。「AIや機械学習を活用しており、傘下の決済サービス、メルカドパゴで得られる膨大な情報がある。極めて膨大な個人情報を手にしており、融資提供に強い自信を持っている」とした。

<強気な投資家>

投資家はメルカドリブレの今後の業績に強気だ。同社の株価は現在2100ドル程度だが、モルガン・スタンレーは9月に目標株価を2175ドルから2500ドルに引き上げた。JPモルガン も同月、メキシコにおけるメルカドリブレのフィンテック事業拡大に2億5000万ドルを融資する契約を結んだ。

中南米では銀行口座を持たない、あるいは現金だけを利用している人が全人口の約4分の1に上るが、スマートフォンの普及に伴いオンラインの貯蓄や決済の面で選択肢が広がっている。

ガルペリン氏もアジアや欧州、北米ではECやデジタル決済はもっと普及が進んでいるとして、「まだできることのほんの一部しか取り組めていない」と意欲を示した。アクティブユーザーを3倍の3億人にすることが目標だ。

メルカドリブレは、ヌーバンクやウアラなどフィンテックライバル企業との間で激しい競争に直面している。ウアラは昨年メキシコで銀行免許を取得。AIを使った与信スコアリングシステムの支援にも力を入れている。

一方、メルカドリブレの潜在的な強みは、ECと金融を組み合わせた点にある。食品、衣料品、美容、電子機器などの分野を強化し、配送を迅速化するために倉庫や流通センターを増設。さらに、ブラジルの孤立地域の消費者に商品を届けるため、電動配送車やドローンの実験にも取り組んでいる。「中南米にはそうした地理的条件の場所がかなり多い」(ガルペリン氏)。

メキシコ市に住むイルランダ・ゼルメーニョさん(24)がメルカドリブレのアプリで新しい靴を検索していると、分割払いでの購入を勧めるメッセージが突然表示された。

「(クレジットでの購入を)探していたわけではなかったのに、突然クレジットを利用するかどうか尋ねられた。それ以来、頻繁にこのサービスを使っている。期限通りに返済すれば利用できるクレジットの枠が増える仕組みだ」と話した。

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナに大規模攻撃、西部テルノピリで25人死亡

ワールド

ウクライナに大規模攻撃、西部テルノピリで25人死亡

ワールド

エプスタイン文書、米司法省が30日以内に公開へ

ワールド

ロシア、米国との接触継続 ウクライナ巡る新たな進展
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、完成した「信じられない」大失敗ヘアにSNS爆笑
  • 4
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 5
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 6
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 7
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 10
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中