ニュース速報
ビジネス

米労働市場の転換点近い、FRBの議論に一石 求人倍率着目の論文

2024年08月23日(金)23時40分

米連邦準備理事会(FRB)の引き締めでインフレが2023年以降低下した局面でも、米企業がコロナ禍の人手不足で大量に増やした求人を減らして労働需要を抑えたため、失業率の目立った上昇を避けられたことはFRB当局者の安心材料となってきた。2013年7月撮影(2024年 ロイター/Jonathan Ernst/File Photo)

Howard Schneider

[ジャクソンホール(米ワイオミング州) 23日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)の引き締めでインフレが2023年以降低下した局面でも、米企業がコロナ禍の人手不足で大量に増やした求人を減らして労働需要を抑えたため、失業率の目立った上昇を避けられたことはFRB当局者の安心材料となってきた。

ただ、スイス・ベルン大学の経済学者ピエールパオロ・ベニーニョ氏と米ブラウン大学の経済学者ガウティ・エガートソン氏の論文は、求人数の継続的な減少が失業率の急上昇につながる転換点に近づいている可能性があると指摘し、FRBによる利下げの必要性を裏付けた。

カンザスシティー連銀開催の国際経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」で公表された論文では、「政策当局者は二つのリスクに直面している。一つは緩和が後手に回り高失業率を伴う『ハードランディング』(硬着陸)となる可能性で、もう一つは、金利を引き下げが時期尚早となり経済が(インフレ高進に)陥りやすくなるリスクだ」とし、「われわれの現在の評価では、前者のリスクが後者のリスクを上回る」とした。

FRB当局者も同様の結論に達したとみられ、9月17─18日の連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げを開始し、その後も継続するとみられている。

論文では「フィリップス曲線」として知られる失業率とインフレの関係、「ベバリッジ曲線」で示される求人と失業率の関係を単一の経済モデルに統合することで、FRBでの議論を深める内容となっている。

米国が最近経験したような持続的なインフレ高騰は供給制約と労働市場逼迫が組み合わさることではじめて生じると論文は指摘。

また、FRBの2%のインフレ目標と整合的な最大雇用の水準や、インフレ率を安定的に低く抑える際のコストといった問題に慎重にアプローチしている。

論文は基調的な労働需給を重視し、失業率そのものよりも、求人倍率に焦点を当てる手法を取っている。

求人数と失業している求職者の数がほぼ一致している場合、高インフレの抑制は失業率の大幅上昇を伴う。米国が1970年代に物価高と高い失業率の同時進行に見舞われたことが好例だ。

一方で、求人件数が求職者を上回る労働需給逼迫の状況ではインフレ抑制による失業率上昇というコストが比較的少ないとした。

2022年にウォーラーFRB理事と調査・統計担当のアンドルー・フィグラ氏が共同執筆したリポートでは、コロナ禍で急上昇した失業者に対する求人倍率を1倍に近づけることで、失業率をそれほど上昇させることなくインフレを抑えることができるとの見方を示唆。これは、インフレ高進を抑えるには失業率が10%程度に上昇する必要があるかもしれないとした主要エコノミストの予測と対照的だった。

実際にこの説は正しことが証明されている。求人倍率は足元で1.2倍まで低下し、FRBが注目するインフレ指標は2022年6月に付けた7%強のピークから2.5%に低下したが失業率は最近まで4%を下回って推移してきた。

論文は現状について、求人件数と求職数が拮抗し、失業率が4.4%近辺と長期平均を下回っているため、FRBがインフレ目標を達成できると予想。

ただ、求人倍率の低下が続けば失業率が急上昇する転換点に達し、「インフレを一段と低下させるのにより大きなコストを伴う公算が大きい」としており、同倍率が0.8倍に低下することになれば失業率が5%以上に上昇すると予想した。

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、方向感欠く取引 来週の日銀
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 9
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中