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アングル:マイナス解除へ市場の織り込み急加速、虚突かれ波乱含みの年末に

2023年12月08日(金)14時17分

12月8日の東京市場は債券安(金利は上昇)と円高、株安が同時に進行する荒れ相場となった。写真は株価ボードを見る人。都内で2013年6月撮影(2023年 ロイター/Issei Kato)

Noriyuki Hirata Tomo Uetake Shinji Kitamura

[東京 8日 ロイター] - 8日の東京市場は債券安(金利は上昇)と円高、株安が同時に進行する荒れ相場となった。植田和男日銀総裁の発言を受けて、マイナス金利の解除が近いとの思惑が一気に高まった前日の流れが続いた。海外時間には円が対ドルで一時141円台まで急騰するなど市場の動きは急激で、12月会合を挟んで波乱の年末となってきた。

<日銀副総裁発言で思惑、総裁発言で増幅、首相との会談が決定打>

きょうの日経平均は続落して始まり、一時500円超安に下げ幅を広げた。海外市場で円が前日日中から5円超上昇したことを嫌気し、輸出関連株を中心に幅広い銘柄で売りが先行した。円債市場では、新発10年国債利回り(長期金利)が一時前日比5.0ベーシスポイント(bp)高の0.800%と3週間ぶりの水準に急上昇し、一時144円台まで切り返したドル/円も、再び142円台まで円高が進行した。

市場では「『チャレンジング・ショック』という言葉も聞かれる」(野村証券の神谷和男投資情報部ストラテジスト)という。植田総裁は、前日の参議院財政金融委員会で「チャレンジングな状況が続いているが、年末から来年にかけ一段とチャレンジングになるというようにも思っている」と述べた。情報管理を徹底しつつ、丁寧な説明、適切な政策運営に努めていくと続けたことで、市場では12月や1月の会合での政策の追加修正の「地ならし」の思惑が出た。

国内金利は日銀執行部の発言のほか、前日の30年債入札が歴史的不調に終わったことや、植田総裁と岸田首相の会談が早期の政策修正の思惑を相乗的に高め、債券売り(金利は上昇)に拍車が掛かった可能性がある。

三井住友トラスト・アセットマネジメントの稲留克俊シニアストラテジストは「植田総裁の発言だけでは正常化に向けて半歩進んだ程度の印象だった」と話す。事前に不安視された30年債入札が絶不調となり、投資家が金利先高観を抱き応札直前に引いたと感じたという。「そこに畳みかけるように総裁の官邸入りが伝わり、正常化に1.5歩進んだとの認識に変わった」と振り返った。

6日に大分市で講演した氷見野良三副総裁の発言に布石があったとする指摘もある。講演録によると、副総裁は「賃金から物価への波及も幾分戻ってきているように見える」としたうえで、それは「良い方向のしるし」だと評価した。

りそなホールディングス市場企画部の石田武ストラテジストは「米連邦準備理事会(FRB)はジェファーソン副議長を地ならしに使うことがあるが、今回日銀は、氷見野氏を同じような役回りにしてきたと感じた」と述べ、同副総裁の発言がターニングポイントになったとの見方を示した。

<思惑利用して短期筋が激しく売買>

一方、国内の市場関係者からは、総裁発言について「早期のマイナス金利政策解除を示唆したもの、と読むのは無理があるのではないか」(野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミスト)との見方も少なくない。総裁への質問は、一般的な職務に関する今後の取り組み姿勢についての問いであり、金融政策の姿勢への問いではなかったためだ。「情報管理に言及したのは、直前の内田真一副総裁への問いに、総裁も重ねて付言したにすぎないだろう」と木内氏は指摘している。

実際、前日午前に総裁発言が伝わった後、円相場はそれほど反応を見せなかった。円高が進行し始めたのは、海外勢が参入して取引量が増える午後3時過ぎ。「一目均衡表を下抜けて以後、13週移動平均線などの下値めどを相次ぎ突破し、テクニカル勢はドル売り攻勢を強めていた」(外銀トレーダー)といい、一段の円買い機会をうかがっていた短期筋の円買いを植田総裁の発言が加速させた、というのが実情のようだ。

欧州時間に本格的な織り込みが進んだことについて「海外勢はニュースのヘッドラインだけに反応している側面がある。多少のインフレでは値上げや賃上げになかなか動かない日本の事情も、理解されていないのではないか」(しんきんアセットマネジメント投信の藤原直樹シニアファンド・マネージャー)との見方が聞かれる。

野村証券の神谷氏は「デフォルメして伝わった可能性があるが、総裁発言が意図的なものかどうかは不明なため、当面は注意が必要だろう」と話している。

<需給面の作用も>

需給面から市場反応が増幅された側面もありそうだ。円債は6日朝には一時0.620%まで低下していた。FRBよる来年の利下げが意識され米金利が低下基調にあった中で「海外投資家は、円債のショートカバーをせざるを得なかった」(モルガン・スタンレーMUFG証券の杉崎弘一・債券戦略部エクゼクティブディレクター)ためで、「円金利は米金利低下に追随して過度に低下し、反発余地が生じていた」(りそなの石田氏)とみられていた。

円相場でも、ドルが昨年秋の円買い介入来高値をつけた11月13日以降、ドル安が勢いづく中でも、円の弱気を維持する個人や海外勢などの短期筋は、下値でドル買い/円売りに動いていたという。投機筋の売買を集計する米商品先物取引委員会(CFTC)の調べでも、円売りポジションは6年ぶり高水準から、それほど変化していない。

日本株は、海外勢が11月に先物を1.4兆円買い越していた。日経平均は夏場以降のレンジの上限付近へと大幅上昇していたこともあって、利益確定売りが出やすい地合いにあった。

取引が世界を一周したことで、大方は織り込まれたとみられている。それだけに「12月会合で現状維持なら円安に進む可能性もあり、ボラティリティーは高まりそうだ」(松井証券の窪田朋一郎シニアマーケットアナリスト)と警戒される。

これまで12月会合は大きな波乱は見込まれていなかったが「急速に注目度が高まった」と、松井証券の窪田氏は話す。三井住友トラストAMの稲留氏は「12月会合は『超ライブ』だ」として、マイナス金利解除の可能性は5割程度に高まったとの見方を示している。

12月の日銀会合は18―19日に開かれる。

(平田紀之、植竹知子、基太村真司 編集:橋本浩)

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