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焦点:日銀新トリオ、緩和継続・機動性重視 市場安定が最初の課題

2018年02月16日(金)19時08分

 2月16日、政府が選択した日銀の新体制は、黒田東彦総裁(写真中央)を再任し雨宮正佳・日銀理事、若田部昌澄・早大教授を副総裁に起用する布陣だった。衆議院で撮影(2018年 ロイター/Toru Hanai)

[東京 16日 ロイター] - 政府が選択した日銀の新体制は、黒田東彦総裁を再任し雨宮正佳・日銀理事、若田部昌澄・早大教授を副総裁に起用する布陣だった。リフレ派の起用で大規模緩和の継続をイメージさせるとともに、アイデアマンの昇格で機敏な対応も可能にした。

ただ、足元で金融市場が不安定化する一方、緩和の副作用も懸念されており、黒田日銀の新たな船出は「波高し」と言えそうだ。

<早速直面する円高の課題>

政府は16日、次期日銀正副総裁の国会同意人事案を衆参両院に提示した。黒田氏の再任で、アベノミクスの継続によるデフレからの脱却を目指す「大命題」に揺るぎがないことを示すとともに、現在の岩田規久男副総裁と同様に大規模な金融緩和によってインフレ期待を高め、緩やかな物価上昇の実現を目指す「リフレ派」の代表的な経済学者である若田部氏、日銀プロパーで政策立案能力に長けた雨宮氏を起用。金融緩和姿勢の継続と、経済や物価、金融情勢に応じた機動的な金融政策運営にも配慮した布陣と言える。

市場では副総裁の人選について「日銀出身で現政策の立案に携わってきた雨宮氏、リフレ派で民間出身の若田部氏を候補として充てた。市場の混乱を避けながら、うまくバランスを取ったのだろう」(セントラル短資・総合企画部企画調査グループ係長の佐藤健司氏)との評価が聞かれている。

それでも、先行きを展望すれば、平たんな道が続いているようには見えない。足元では、日米欧の金融政策運営を巡って金融市場は神経質な動きになっている。

今年に入り、米国のインフレ期待の高まりを受けて米長期金利が急上昇。米国を起点に世界的に株価が急落する場面が訪れ、長く続いてきた好景気・低インフレという適温経済を前提とした株高・低金利にも変調が見え始めている。

16日の東京市場では、ドル/円が一時105.545円まで下落し、2016年11月10日以来、1年3カ月ぶり円高水準を付けた。

市場では、円高というよりもドル下落との受け止め方が多いが、結果として円高になれば、輸出入を通じた日本経済と物価の下押し要因になりやすい。

日本経済が8四半期連続でプラス成長を続け、人手不足感が歴史的な水準に高まるなど、日本経済の需給は着実に引き締まっている。

だが、消費者物価の伸びは前年比プラス1%程度と日銀が掲げる2%の物価安定目標の実現には「道半ば」(2月16日の衆院財務金融委員会での黒田総裁の発言)だ。

<手腕問われる長期金利コントロール>

一方、長引く超低金利環境によって、金融機関の預貸金利ざやは縮少を続け、特に地域金融機関の経営は厳しさを増し、大規模緩和の副作用に対する金融関係者の懸念は強まっている。

1月の金融政策決定会合では、政策委員からも「環境変化や副作用も考慮しながら、先行き、望ましい政策運営のあり方について検討していくことも必要になる」と副作用への警戒感が示された。

さらに、米欧の中央銀行が金融政策の正常化に歩を進める中で、現行のイールドカーブ・コントロール(YCC)政策での金利調整などに対する市場の思惑も高まりやすい。

福田慎一・東京大学大学院教授は16日のロイターとのインタビューで、日銀による長期金利操作について「他国が金融緩和の出口に向かう中で、日銀にとって長期金利のコントロールはかなり難しい」とし、「今の日本では、これ以上金利が下がれば金融機関の経営が苦しくなり、上がれば株価が暴落するリスクが大きくなるといった、微妙なコントロールが必要になる」と金利調整の難しさを指摘している。

<注目される市場との対話>

日銀を取り巻く全体的な環境を見渡すと、円高などの景気下押し圧力と、人手不足や人件費の上昇など需給動向を引き締める要素が混在している。

こうした中で、デフレへの逆戻り阻止に強い決意を持つ若田部氏と、経済と金融の歪みを見つけ出し、大きな穴が生じないうちに対応策を打ち出すノウハウを蓄積した雨宮氏の取り合わせは、景気の両方向に機動的に対応する「手段」を備えた陣容とも言える。

ただ、情報発信の仕方によっては、市場が「不協和音」と受け取るリスクもある。そこで期待されるのが、黒田総裁のリーダーシップだ。

2期目の黒田総裁にとって、複雑さを増す金融・経済情勢の中でどのような「カード」を切ってくるのかを判断する手段として、市場との対話における市場参加者の反応も大きな材料になりそうだ。

新任副総裁が就任する3月20日に事実上発足する日銀新体制は、世界で最も進んでいる少子高齢化や、残高の対GDP(国内総生産)比が最も大きい国債の積み上がりなど、どこも経験したことのない環境の下でスタートする。「未知との遭遇」にチャレンジする創造力が問われることになりそうだ。

(伊藤純夫 編集:田巻一彦)

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