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アングル:急激な円高を抑制、日銀の「検証」が緩和期待つなぐ

2016年07月29日(金)20時37分

 7月29日、失望の声も出た日銀の追加緩和内容にもかかわらず、円高進行は限定的だった。2011年8月撮影(2016年 ロイター/Yuriko Nakao)

[東京 29日 ロイター] - 失望の声も出た日銀の追加緩和内容にもかかわらず、円高進行は限定的だった。次回の日銀会合で政策の「総括的な検証」を行うと公表し、追加緩和期待が残ったためだ。政策の限界に伴うレジームチェンジというリスクもあるが、ひとまずはドル/円の下支えになるとの見方が出ている。

<失望と安堵>

29日のドル/円相場は、追加緩和の発表後に105.00円付近からいったん105.75円に上昇したが、事前に市場で思惑が強まっていた量的緩和やマイナス金利といった他の政策手段が据え置かれたことで、失望感の広がりを背景に一時、102.70円へと3円幅で下押しした。

ただ、その下押し圧力は、事前に警戒されたほどには強まらなかった。三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト、植野大作氏は「期待していたほど円安にもならなかったが、心配していたほど円高にならなかった。市場は軽く失望したものの、ホッとした部分もある」と指摘している。

背景として、ニッセイ基礎研究所のシニアエコノミスト、上野剛志氏は「市場は追加緩和の思惑を読み取っており、目先のドル/円相場でも下支えになりそうだ」と指摘している。

日銀会合後の発表文では、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現する観点から、9月に予定される次回の金融政策決定会合で、これまでの緩和策の下での経済・物価動向や政策効果について、総括的な検証を行う方針が盛り込まれた。

日銀会合後の記者会見で、総括的な検証を受けた対応を問われた黒田東彦総裁は「検証結果に応じて必要なら、必要な措置を取る」と、追加緩和に含みを残した。

外為どっとコム総研の調査部長、神田卓也氏は、日銀発表後に乱高下した日経平均<.N225>が、約90円高で大引けとなったのも、期待がつながれたことの表れとみている。

<米利上げ観測も>

今後、9月にかけて市場が崩れる場合に備えた追加緩和の余地が残る一方、市場が落ち着いて米国の利上げの思惑が強まってドル高になるなら、追加緩和も必要なくなるとニッセイ基礎研究所の上野氏は予想。「結果的に日銀は時間的な猶予を得た」と話している。

通貨オプション市場では、前日に日銀緩和を織り込む形で、1週間物のドル/円リスク・リバーサル(RR)25%デルタが傾き、0.88%付近のドル・コール・オーバーに転換していた。それが日銀会合後には、ドル・プット・オーバー1.0%付近に再び転換した。「異常だった期待値が、いったんはく落した」(国内金融機関)とされる。

あおぞら銀行の市場商品部部長、諸我晃氏は「米経済指標の改善基調や、英国民投票後の市場の混乱が落ち着いてきていることから、円高リスクが以前より和らいでいるようだ」と指摘。目先のドル/円レンジは102─106円との見方だ。米経済の改善次第で、上方向の余地もありそうだという。

<残る円高リスク>

ただ、ドル/円チャートでは、円高トレンドが続いている様子もうかがえる。バンク・オブ・アメリカ・エヌ・エイの外国為替本部営業本部長、岩崎拓也氏は、急激な円高のリスクはみていないとしながら「一目均衡の雲の下限を下回って週を終わるようなら、方向としては円高」と指摘する。政策の限界を織り込んだ値動きとの指摘も聞かれる。

9月の日銀会合は連休に挟まれる。この上、米連邦公開市場委員会(FOMC)と発表のタイミングが重なることから「またトリッキーな展開になりかねない」と岩崎氏は予想している。

(平田紀之 編集:田巻一彦)

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