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TPPはアベノミクスに追い風も、農業補助金ばらまきに警戒

2015年10月06日(火)12時27分

 10月6日、TPPの大筋合意は、手詰まり感のあったアベノミクスの追い風になるとして日本株には好材料と受け止められているが、効果が表れるには時間がかかる。山形県鶴岡市で7月撮影(2015年 ロイター/Kaori Kaneko)

[東京 6日 ロイター] - 環太平洋連携協定(TPP)の大筋合意は、日本株市場で好材料として受け止められている。手詰まり感のあったアベノミクスの追い風になるとの見立てだ。だが、効果が表れるには時間がかかる。

短期的な悪影響を緩和するために、農家に従来型の補助金をばらまけば、日本農業の競争力強化に水を差しかねず、財政悪化も招きかねない。市場は、安倍晋三政権の次の一手を見守っている。

<鈍い自動車株>

日本が強みを持つ自動車産業。貿易自由化に道を開くTPPで最もメリットを受ける業種のひとつと言える。しかし、株価の動きを見る限り、現時点における市場評価はそれほど高くない。

TPPの大筋合意見通しと伝えられた5日、トヨタ自動車<7203.T>の終値は0.15%安、ホンダ<7267.T>は0.05%安だった。日経平均<.N225>が1.58%高となり、1万8000円を回復する中、輸送用機器<.ITEQP.T>は0.19%高と33業種中、下から4番目。6日前場も市場平均を下回り、自動車株に関してはTPPを材料視するという雰囲気ではない。

日本製の乗用車にかかる米国の関税は2.5%。それほど高いわけではなく、さらにこれを15年目から縮減を開始し、25年目で撤廃という長いスケジュールだ。また、日系自動車メーカーは現地生産化を進めており、調査会社IHSオートモーティブによると、ライトビークル(乗用車および車両総重量6トン未満の商用車)の70%が海外生産(2015年予測)だ。TPPで輸出がただちに急増するとの見方は少ない。

「TPPの恩恵は、少なくとも短期的には自動車産業にそれほど大きくないだろう。あくまで長期的なメリットという視点」と、三菱UFJモルガン・スタンレー証券・投資情報部長の藤戸則弘氏はみる。

<日本の農業への効果はまだ不明>

TPP関連で株価の反応が良かったのが農業関連株だ。5日の市場では、林兼産業<2286.T>が13.95%高、井関農機<6310.T>が7.95%高、ヤマタネ<9305.T>が7.87%高と値上がり上位にランクインした。プリマハム<2281.T>などの加工食品会社、フィード・ワン<2060.T>など飼料会社も買われた。

安い製品が入ってくれば、加工食品会社などはコスト減のメリットが期待できる。外からの刺激によって日本の農業が活性化されれば、農薬会社や飼料会社にもプラス効果が及ぶ。また「高級品」である日本の農産物は、新興国とは競合せず、貿易自由化が進むことで日本からの輸出が促進されるとの期待もある。

ただ、「上場している企業にはメリットが大きいが、個人農家などにはやはりTPPはダメージをもたらしかねない。TPPが日本の農業全体にプラスかマイナスかは、まだみえない」(りそな銀行・アセットマネジメント部チーフ・エコノミストの黒瀬浩一氏)との懸念もある。「農機株などへの買いは、あくまで連想買いにすぎない。反動安には警戒が必要」(国内証券)という。

<「過保護」な政策に警戒>

TPPに関する市場の懸念は、悪影響を受ける個人農家などを対象に、政府が補助金をばらまくのではないかという点だ。

「TPP合意によるデメリットはあまり見当たらないが、あえて言えば競争にさらされる農業や酪農などに対し、政府が過剰に反応して補助金などを実施するケースだ。対外的には開放政策、対内的には保護政策というのはTPPの精神にそぐわない」と、BNPパリバ証券・日本株チーフストラテジストの丸山俊氏は話す。

日本の国内総生産(GDP)でみて、農林水産業を全て合わせても1.2%に過ぎない。だが、経済協力開発機構(OECD)によると、関税や補助金といった保護策による収入の割合は、2011─13年のデータで日本は55.6%と2番目に高く、OECD平均の3倍近い水準。厚い保護政策が拡大すれば、現在でさえ遅れている財政再建はさらに遠のく。

TPPは、輸入品との競合でダメージを受ける国内産業従事者には不人気な政策だ。自民党の支持基盤の弱体化や、安倍首相の支持率低下を招く恐れもある。そうした政策を断行したことは市場でも評価されているが、支持率回復を狙って「過保護」な政策に走れば、今は好材料と受け止めている市場も態度を変えるかもしれない。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

<東京市場 6日>

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日経平均  国債先物12月限 国債340回債   ドル/円(11:00)

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18273.31円 148.36円 0.325% 120.43/45円

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

+267.82円 -0.10円 +0.015% 120.45/48円

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

注:日経平均、国債先物、現物の価格は前引けの値。

下段は前営業日終値比。為替はNY午後5時。

※クロスマーケットアイは、.JPCM+ENTER キーで検索できます。

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