コラム

「国防」を後回しにする鳩山政権

2009年10月22日(木)17時26分

 新たな政策決定プロセスを導入し、マニフェストに掲げた政策の費用を捻出するために来年度予算案を練り直し、在日米軍再編をめぐってオバマ政権の譲歩を引き出そうと奔走する──。さまざまな課題が山積している鳩山政権が、防衛省改革にあまり触れようとしないのは当然のことだろう。

 思い返してほしい。福田政権下で防衛専門商社「山田洋行」による汚職事件が明るみに出ると、石破茂防衛相(当時)は防衛省改革に着手。その後、自衛隊イージス艦あたごが漁船に衝突する事故が発生すると、改革の緊急性は一段と高まった。

 だが、防衛省改革会議が報告書を提出した直後に石破は大臣の座を降り、間もなく福田康夫首相も辞任した。その後の麻生政権では、防衛省改革も防衛装備品の調達をめぐる改革も重要議題にはならなかった。

 日本の防衛費はこの10年間、削減が続いているが、いまだに無駄は多い。だとすれば、鳩山政権が装備品調達の改革に関心をもつのは当然だ。防衛システムを複数年分まとめて大量購入する代わりに単年度ごとに購入するといった割高な調達手法を改めたいという意欲をもっているはずだ。

 国内の防衛産業を守るために行われてきたこうした手法は、あまりにコスト高だ。在日米国商工会議所は、「日本のシステムは調達改革を進めた他国の同等のシステムに比べて300~1000%割高になっている」と結論づけた

 鳩山政権は防衛省改革を完全に忘れたわけではないだろう。だが北沢俊美防衛相は先週、背広組と制服組の融合を柱とした自公政権時代の改編計画を白紙に戻すと表明(2010年度予算案に計上される予定だった)。代わりに改革を一年間先送りして、政権独自の案を作成すると発表した

■防衛大綱の改定も来年に先送り

 先送りされるのは防衛省改革だけではない。政権発足から一カ月ほどしか経っていないことを考えれば驚く話ではないが、鳩山政権は長期的な防衛のあり方を示す防衛計画の大綱の改定を、予定されていた今年12月から来年末に先送りすると決定した。主要装備品の整備内容を定める次期中期防衛力整備計画の策定も、合わせて来年にもち越された。その一方で、自民党政権が1995年と2004年の防衛大綱改定の際に行ったように、鳩山政権も有識者会議を立ち上げる予定だ。

 大綱のとりまとめを1年間先送りすることで、緊縮財政下における自衛隊のあり方を示すような案が作られることを願いたい。憲法違反を犯すことなく日本が国際貢献できるような自衛隊の位置づけを真剣に検討しつつ、防衛費の使い道の効率性を最大限に高めるような計画だ。

 民主党は予算の無駄を省き、不況の再来を回避する努力を続けながら、より包括的な福祉国家を建設しようとしている。となれば、民主党が防衛費の削減傾向を反転させる可能性は低い。世論調査でも明らかなように、国民が防衛予算の削減を望んでいるのも事実だ。

 だが、防衛予算の切り詰めが当分続くとすれば、民主党は限られた予算を有効に使う道を模索する。日本が「再軍備化」するという意味ではない。鳩山政権が国防に真剣に取り組んでいるという立場を示すことで、選挙の際に自民党から必ず出るであろう批判から身を守ることになる。

 新たな防衛大綱と中期防衛力整備計画は、重要なタイミングで発表されることになる。中国の軍事費は相変わらず増加しているし、多くの財政課題をかかえるアメリカの東アジアにおけるプレゼンスの永続性と規模について疑問の声が上がるのは必須だ。さらに、日本の厳しい財政環境を考えれば、鳩山政権はアメリカや中国、アジアとの関係や行財政改革と整合性のある防衛戦略を練る必要に迫られるだろう。

 政府が有識者会議に重量級の人材を選出し、こうした課題に包括的に取り組む権限を与えることを期待したい。

[日本時間2009年10月19日(月)11時47分更新]

プロフィール

トバイアス・ハリス

日本政治・東アジア研究者。06年〜07年まで民主党の浅尾慶一郎参院議員の私設秘書を務め、現在マサチューセッツ工科大学博士課程。日本政治や日米関係を中心に、ブログObserving Japanを執筆。ウォールストリート・ジャーナル紙(アジア版)やファー・イースタン・エコノミック・レビュー誌にも寄稿する気鋭の日本政治ウォッチャー。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

「貿易システムが崩壊危機」と国連事務総長、途上国へ

ワールド

欧州委、中国のレアアース規制に対抗措置検討─経済担

ワールド

米軍、麻薬密売船を攻撃か 南米太平洋側では初

ワールド

米、対中報復措置を検討 米製ソフト使用製品の輸出制
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 6
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    やっぱり王様になりたい!ホワイトハウスの一部を破…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 6
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 9
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 10
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story