コラム

麻生失言とT・ルーズベルトの関係

2009年07月28日(火)17時27分

 結局のところ健全な国家は国民の男女が清廉で精力的で健全な生活を送ることで初めて成り立つ。男性は喜んで仕事に邁進し、労働に厭わず、自活し、家族を養う。女性は良き配偶者、良き主婦でなければならず、賢く勇敢な母親として沢山の健康な子供を育てる(セオドア・ルーズベルト、1899年4月10日の演説『奮闘的生活』より)。


 またぞろ麻生太郎首相の失言が批判を受けているが、麻生が何を言わんとしていたか、そしてその発言が彼のどんな考え方を表しているかを考える価値はある。

 7月25日に横浜で開かれた日本青年会議所(麻生自身が1978年に会頭を務めた組織だ)の会合で、麻生は65歳以上の高齢者の役割についてこう語った。「元気元気な高齢者をいかに使うか。この人たちは皆さんと違って、働くことしか才能がないと思ってください」

 なぜこれが失言となるのだろう。働ける高齢者は働くべきだという信念を、麻生はこれまでも隠していない(おそらく「元気な」高齢者である自分自身の経験から出た言葉だ)。一貫性のある世界観に基づいた言葉なのだから、「言語能力に問題がある」首相の発言として、ほかの失言と同様に扱われるべきではない。

■T・ルーズベルトと日本の保守派の共通点

 ここで冒頭のセオドア・ルーズベルトの引用に戻る。このスピーチは、奮闘する生活を提唱するルーズベルトの世界観──国際政治上のアメリカの立場と国力の根幹のあるべき姿──を最もよく言い表している。1898年にアメリカが米西戦争に勝利した翌年のスピーチなので当然のように「国内に縮こまらず」、陸・海軍力を強化するよう鼓舞している。

 麻生の世界観、そして日本の保守派の世界観を良く知っている者として、麻生が高齢者に対して『奮闘的生活』を求めたと聞くと、ルーズベルトを思い起こさずにはいられない。両者が似ているのは偶然ではない。麻生や保守派は直接ルーズベルトの演説を引用してはいないが、その考え方はルーズベルトと同じく、社会進化論の香り漂う19世紀後半のロマン主義に根ざしている。

 ルーズベルトが明治時代の日本の成功を高く評価していたことも偶然ではない(ここでほのめかしている)。その後、日本をアメリカ外交の脅威と見なすようになるが、国力を拡大するために勤勉さと闘争を強調したルーズベルトの考えは、明らかに現代の日本の保守派に蘇っている。

■怠惰な暮らしに慣れきった日本人

 国民がもっと働けば日本はどんな問題でも解決できるという考え方は、首相就任後の麻生の発言に共通して表れている。特に就任当初、金融危機に直面した麻生は日本が先進国で最初に不況から脱出することを目指すと自信満々だった。

 この知識階層同士の共通性に実はあまり意味はない。ルーズベルトのような積極的な考え方は、21世紀の日本ではまるっきり通用しないからだ。日本の大衆は、ルーズベルトが軽蔑する「偉大な成果を求める欲望や力の欠落が生む怠惰で平穏な生活」を甘受している。20世紀に経済発展のために奮闘した後、多くの日本人はいま完全に努力を他者に委ね、平和と繁栄の暮らしに満足しているように思えてならない。

[日本時間2009年07月27日(月)14時21分更新]

プロフィール

トバイアス・ハリス

日本政治・東アジア研究者。06年〜07年まで民主党の浅尾慶一郎参院議員の私設秘書を務め、現在マサチューセッツ工科大学博士課程。日本政治や日米関係を中心に、ブログObserving Japanを執筆。ウォールストリート・ジャーナル紙(アジア版)やファー・イースタン・エコノミック・レビュー誌にも寄稿する気鋭の日本政治ウォッチャー。

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