コラム

死期を早めた自民党の悪あがき

2009年06月30日(火)17時00分

 衆院解散は「そう遠くない」と、麻生太郎首相は言った

 だとしても、遅過ぎただろう。読売新聞は、今週から麻生降ろしが本格化すると報じている。自民党内の反麻生の動きは日々、勢いを増す一方。総裁選の前倒し実施を求める改革派は、最後にもう一回トップの顔をすげ替えさえすれば、過去3年間の改革後退を埋め合わせられると考えているようだ。

 小泉純一郎元首相の忠実な部下だった武部勤元幹事長は、次期総裁候補に小池百合子元防衛相や舛添要一厚生労働相の名前を挙げて総裁選の前倒しを求めた。中川秀直元幹事長や棚橋泰文元科学技術担当相は、麻生の退陣を求めている。

 だが反麻生の動きは、自民党の衰退を加速させ解散を早める以外、何の役にも立たないように見える。所詮、解散権という「核兵器」をもつのは首相のほうで、もしそれを行使されれば麻生降ろしの努力も水の泡だ。解散を目前に控えた今になって麻生を代えるのはバカげているし、解散と総選挙の間に代えるのは有権者の知性に対するさらなる侮辱だろう。

 今指導者を代えるのは、国民にこう言うのと同じことだ。「小泉の後の総裁3人の失態は無視して、新しい○○総裁(○○には、好みの派手そうな名前を入れる)の下で明るい将来を目指しましょう」

 党の役員人事をいじって総選挙の間に首相の横に並ぶ顔ぶれを変えようというのも同じく侮辱だ。だが麻生に残された権限は、解散権を除けば閣僚と党役員の人事権だけ。だとすれば、最後の手段を使って党の人事刷新を図るかもしれない。

■総選挙の顔は「舛添幹事長」?

 山本一太参議院議員は、「舛添幹事長」の噂をほのめかす。言い換えれば、舛添を総選挙の責任者に据えて、自民党でもまだ人気のある数少ない政治家の一人として全国を回らせようということだ。

 自民党がどれほど追い込まれているか、もはや言い表しようがない。民主党に一大スキャンダルでも起きないかぎり、自民党が勝てる見込みはなさそうだ。民主党にスキャンダルがあったとしても、接戦にもちこむのがやっとだろう。

 改革派は党のためによかれと思いながらも結局は、自民党と麻生を運命共同体にしてしまった。彼らの麻生降ろしのおかげで、麻生は首相としても総裁としてもほとんど無力な指導者に見える。

 麻生は、最後の権利を死守するつもりのようだ。産経新聞によれば、8月上旬に総選挙の線が濃厚のようだ。また自民党の大島理森国会対策委員長によれば、麻生は二者択一を迫られている。7月8日からイタリアで開かれる主要8カ国首脳会議(G8サミット)の前(そして7月12日の都議選の前)か、後かだ。

 いずれにしろ、結果は大して変わるまい。麻生がイタリアをエンジョイできるかどうかを除いては。

[日本時間2009年06月28日(日)23時30分更新]

プロフィール

トバイアス・ハリス

日本政治・東アジア研究者。06年〜07年まで民主党の浅尾慶一郎参院議員の私設秘書を務め、現在マサチューセッツ工科大学博士課程。日本政治や日米関係を中心に、ブログObserving Japanを執筆。ウォールストリート・ジャーナル紙(アジア版)やファー・イースタン・エコノミック・レビュー誌にも寄稿する気鋭の日本政治ウォッチャー。

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