コラム

中国が仕掛ける台湾人「転向」作戦

2018年12月06日(木)18時00分

蔡総統は与党大敗の責任を取って民進党主席の辞任を表明 Ann Wang-REUTERS

<地政学的力学と経済力と巧妙な情報戦術で、共産党は親中派の市民を着実に増やそうとしている>

壮大な橋と、香港の人々の声の大きさと、金色の馬が、台湾の今を物語っている。

11月24日に実施された台湾の統一地方選挙は事実上、中国の対台湾政策の勝利となった。22県市の首長ポストは、親中とされる野党陣営が改選前の6から15まで増やしたのに対し、与党は13から6に減らした。

世界中の専門家が、今回の選挙を「台湾の香港化の始まり」とみる。香港に続いて台湾でも、歴史の針は中国に向かいつつある。むしろ台湾のほうが、その変化は顕著かもしれない。

選挙の1カ月前の10月24日、台湾から西に700キロの地で、香港と中国の広東省珠海、そしてマカオを結ぶ「港珠澳大橋」が開通した。式典には中国の習近平(シー・チンピン)国家主席も出席した。

全長55キロの圧巻の建造物は、政治的メッセージでもある。旧イギリス植民地の香港と、中国、そしてポルトガルの貿易の拠点だったマカオが、初めて1本につながった。

200億ドルとも言われる総工費が、元を取ることはないだろう。橋を架ける事業そのものが壮大さと権力と大胆さの象徴であり、開通の式典に習が出席したことは政治的な意思表明だ。この地域では、全ての橋が北京に通じるのだ。

香港でもある変化が起きている。文化の活力と経済の躍進は、今も香港を輝かせている。ただし、賢明な住人はしばらく前から、政治的に敏感な話題になると慎重に言葉を選び、時には文字どおり声をひそめている。

今年10月には英フィナンシャル・タイムズの編集者で、香港外国記者会の副会長を務めるビクター・マレットが、香港当局からビザの更新を拒否された。香港の独立を主張する政治団体が9月に活動禁止命令を受けたが、8月にその創設者を記者会が講演に招いていたことが大きな理由だとみられている。

かつては中国の玄関口であり、世界に通じる窓口だった香港も、今や橋1本でつながって、「中国の」印象的な都市の1つにすぎなくなろうとしている。

習が大橋の開通式典に臨んだ3週間後の11月17日、台北に台湾と中国の映画関係者が集まった。中華圏のアカデミー賞と言われる「金馬奨」の授賞式が開催されたのだ。金馬奨には96年から中国本土の監督や俳優も参加しており、中華系の映画人が、出自や政治的立場を忘れて共通の文化を祝う機会となっている。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 6
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 7
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 8
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story