コラム

企業もスパイ機関も同じ CIAが説く意外な最強リーダー論

2018年08月22日(水)11時15分

テネット元CIA長官(左)は人柄も行動も優れたリーダーだった CHARLES OMMANNEY/GETTY IMAGES

<優れたリーダーシップとは何か? CIAでリーダー育成プロジェクトを開発した元担当者が明かす組織を成功に導く大原則。本誌8/21発売号「CIAに学ぶ最高のリーダー論」特集より>



※本誌8/28号(8/21発売)「CIAに学ぶ最高のリーダー論」特集では、最強スパイ機関を最強たらしめる意外なマネジメント術に迫る。他に、米海兵隊リーダー11の鉄則、知性派国防長官マティスの本棚も公開。

皆さんは「優れたリーダー」と聞いてどんな人物を想像するだろうか。勝負ネクタイを締めた白髪の大企業家? それとも物語に登場する「白馬に乗った王子」だろうか。いずれにせよ、自信に満ちていて、勇敢で、力強く指揮を執っているイメージだろう。

リーダーシップに関する本や専門家の話は技術論が中心で、たいてい事業に成功した人の経験談や、成功したと宣伝したい人の自慢話であふれている。そして、そこには常に「トップ」を演じる人の存在や、見習うべき行動が示されている。ライバルより自信を持って行動せよ、積極的になれ、決断力を発揮しろ、などというように。

だがCIA(米中央情報局)で私が経験した限り、優れたリーダーはカリスマ的な人物というわけではなかった。良きリーダーとは集団や組織を成功に導くような一連の資質と行動を備えた人物のことだ。偉そうな風貌や冷淡になりがちな「強さ」よりも、人を育てる能力のほうがリーダーには重要だ。

CIAで専門知識と指揮命令系統が大切なのは当然だ。だが良きリーダーとなる鍵は軍事・諜報作戦の成功の鍵と同じ。集団力学を理解できる感受性と、構成員や組織全体を成功に導くようサポートできることこそが、米軍やCIAにおけるリーダーシップの核心と言える。

20年ほど前、米議会は当時のCIAに不満を抱いていた。CIA内部のリーダーシップ体制が貧弱だというのがその理由だ。その頃のCIAは幹部が攻撃的なことで知られており、彼らは部下に対する指導よりも作戦を優先していた。CIA内では「管理」は人間の仕事ではなく機械化された作業として、軽視されていたからだ。

ジョージ・テネットCIA長官から問題解決の指示を受けた人事部トップからの要請で、私はリーダーシップの本質を組織に浸透させるプロジェクトに参加することになった。

この作業を通じて、私は約20年の諜報活動の現場で学んだことについて、意識して考える機会を得た。いかなる組織においても(諜報機関でも企業でも軍隊でも、どんな民間の組織でも)リーダーは組織を「人間の集団」として扱うことが重要だ。リーダーシップとは、逆説的だがつまるところ個々の構成員の行動なのだ。だから、良き指導者や成功する組織は、あらゆる階級の構成員にリーダーシップの資質と行動とは何かを浸透させ、互いに協力するよう指導し、他の構成員の成功に貢献するようたたき込む。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ6州に大規模ドローン攻撃、エネルギー施設

ワールド

デンマーク、米外交官呼び出し グリーンランド巡り「

ワールド

赤沢再生相、大統領発出など求め28日から再訪米 投

ワールド

英の数百万世帯、10月からエネ料金上昇に直面 上限
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 3
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪悪感も中毒も断ち切る「2つの習慣」
  • 4
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 5
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 6
    「美しく、恐ろしい...」アメリカを襲った大型ハリケ…
  • 7
    「どんな知能してるんだ」「自分の家かよ...」屋内に…
  • 8
    【クイズ】1位はアメリカ...稼働中の「原子力発電所…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    イタリアの「オーバーツーリズム」が止まらない...草…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story