コラム

トランプ「機密メモ」が民主主義をつぶす

2018年02月17日(土)12時00分

ヌネスのメモはFBIが職権を乱用したと指摘しているが Jim Bourg-REUTERS

<ロシア疑惑捜査から目をそらしトランプ大統領の権限を強化――「陰謀説」を主張するトランプ派のあきれた本音>

ロシアの米大統領選介入疑惑をめぐるFBIの捜査の信頼性を損ないかねない機密メモが2月2日に公開された。まとめたのは下院情報特別委員会のデビン・ヌネス委員長(共和党)だ。

カーター・ページ(大統領選でトランプ陣営の外交顧問を務め、ロシア情報当局とのつながりが疑われている)の監視令状を取る際、FBIが適正な手続きを怠ったと、共和党は主張している。「ヌネス・メモ」はFBI、司法省、CIAに潜む「ディープステート(国家内国家)」の人間がトランプ打倒のため職権を乱用し、国家に対する「反逆」とアメリカ史上最大のスキャンダルに関与していることを証明するはずだった。

だが実際は、トランプ擁護派(FOXニュース、共和党指導部、草の根保守派連合ティーパーティーのメンバー)を除く誰もが、メモはトランプ支持者による露骨なデマで、FBIと司法省の行動は適切だったと認識している。実際、メモが指摘するFBIの不正はどれも公開当日に反証されている。

ヌネスのやり方は詐欺まがいだった。メモ公開をめぐる下院情報委員の賛否は共和党と民主党で真っ二つ。FBIや司法省にはメモを見せず、FBI長官と司法副長官がこの件でコメントすることも許可していない。

自身もトランプの政権移行チームの一員だったヌネスは、トランプの側近に対する政府の捜査に関与できない立場だった。にもかかわらず不正疑惑の調査責任者の座に居座り、自ら不正の証拠とするFBI文書の内容を知らないことを認めていながら、FBIを断罪した。

メモは中身のない主張ばかりだ。トランプに対する恐るべき陰謀、ディープステートによる国民の民主的意思の弱体化を証明すると、ヌネスらトランプ擁護派は主張する。正当な理由や適切な監督を伴わない監視は、ページが市民として有する自由に対する重大な侵害だと、メモが証明するという。

トランプが勝ち誇ったのは言うまでもない。あるインタビューでは30分間に16回もロシアとの「共謀はない」と主張し、かえって発覚を恐れているとの印象を強める結果になった。

まるでファシストの発想

メモをじっくり読めば、監視令状を取るに当たってFBIは適切な手続きを踏んでいることが分かる。3つの省から高官5人以上が7回にわたり、90日ごとの裁定プロセスを繰り返し、令状要請を検討した。それも、外国情報監視法(FISA)に基づく監視対象にページが該当するとFBI捜査官が判断した場合に限ってだ。

さらに言えば、ディープステート自体、ファシストの発想だ。民主主義制度は「国民」の利益を代表しておらず、彼らの意思に反して行動する隠れた個人に牛耳られていると、ファシストは主張する。民主主義制度の信用を低下させ、「指導者」がそうした制度を破壊して独裁的に支配できるよう画策するためだ。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 5
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 6
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story